「そばを作る時、僕は”沖縄代表”という、それぐらいの気持ちを持ってやっている。」 そう話すのは、首里の静かな住宅街の奥にある、沖縄そば屋「しむじょう」の店主、新垣英司さん。
モノレール那覇私立病院前駅から歩いて5~10分。 那覇の街並みを一望できるお店にお邪魔すると、開店15分後にもかかわらず、沢山のお客様で賑わっていた。
大好きな本ソーキそばを頼み、お水で喉を潤しながら、庭を眺める。
沖縄独自の植物が雨雫で輝く庭に、扇風機のぶーんという音。
まるでおばぁの家に来たかのような錯覚に陥り、緑の香りが溶け込んだ新鮮な空気を、「すぅ~。」と胸いっぱいに吸い込んだ。
「おまたせいたしました~!」の元気な声で今に引き戻され、美味しい沖縄そばを無心ですする。
幸せな満腹感に浸りながら、食べ終わった器の底を眺めていると、先日のインタビューを思い出した。
「自分が、沖縄そば屋をやるなんて考えたこともなかった。」
そう話す新垣さんは、飲食業とはまったく関係ない職場で働いていたという。
そんな気持ちに変化がうまれたのは、祖母が亡くなってから長らく空き家だった実家の琉球家屋をどうするか?という話が出た時。
壊すのは忍びないが、かといって活かす知恵もない…と思い悩んでいた。
そう思っていた矢先に、NHK連続テレビ小説「ちゅらさん」が放映されると、沖縄ブームが起こり始め、 古民家を改装した喫茶店やそば屋が出始めた。
実家が、アクセスしやすい那覇市内にあることや、昔ながらの琉球家屋であることなど、、、これなら、そば屋をやるのに丁度良いのでは?と思ったのだそう。
お店を出すまでも、長い時間がかかり、出してからも、紆余曲折あった。
なんとか開店にこぎつけ、お客様に「美味しかった!」と言われても、納得する味を求め、くる日もくる日も試行錯誤を繰り返した。
“これがしむじょうの味かな。”と思えるまでに、10年以上もかかったという。
そんな英司さんに仕事のやりがいをお聞きすると、
「やりがいというか…成果って空になって戻ってくる器だよね。」と静かに語る。それと同時に、“変な物を出すわけにはいかない” というプレッシャーが凄くあるという。
特に、本土からくる修学旅行生は、日程が決まっていて、自分たちで食事を選択できる機会が少ないからこそ、“美味しい物を食べさせてあげたい。”と思うのだそう。過去には、自分たちでお店を調べ、1クラス全員で来てくれた時もあったのだとか。
「そんな気持ちで来てくれてるのに。こっちも“沖縄代表”という、そういう気概を持ってやっているよ。それに、そういう気持ちが伝わってるから、皆来てくれてるんじゃないかな?」と語る声と、ふっと浮かべた笑みに、 職人気質な優しい人柄を感じた。
1時間半のインタビューが終わり、何気なく「まかないって、でますか?」と聞くと、「もちろん。うちはまかないに中華も出るよ。岸本豆腐(地元の豆腐屋さん)のゆし豆腐を使って作る麻婆豆腐は、多分那覇で一番だはず。」とユーモアたっぷりに笑顔で返される。
お店で働いているバイト生達(大学生)の親から、 「息子から、しむじょうさんのまかないが美味しいと聞いてます!だからか、私の料理食べないんですよ~!」と、言われたこともあるのだそう。
「毎日、若い子達(バイト生達)に、今日は何を食べさそうか?仕込みが終われば、そればっかり考えている。」と話す姿に、「私も学生時代に、ぜひバイトさせてほしかったです!」と、返すと、「キャンセル待ちがでーじ(沢山)いるから、無理かな~」と返され、おもわず大笑いした。
首里に来た際は、職人気質な人柄の中に、大きな優しさを感じた英司さんの作る沖縄そばを、ぜひ食べに訪れてほしい。
そして、幸せな満腹感と美味しい思い出をたくさん味わってほしい。
首里石鹸 中里有紀子
【沖縄そば しむじょう】
DATA:〒903-0801 沖縄県那覇市首里末吉町2-124-1
営業時間:11:00~15:00 ※売切れ次第終了 ※予約不可
定休日:火曜日・水曜日
※営業時間・定休日は変更となる場合がございますので、ご来店前に店舗にご確認ください。
TEL:098-884-1933
お店は1954年に建てられた琉球家屋(国の有形文化財)。
店主の英司さんがつくる沖縄そばは、透き通ったスープとコシのある麺、柔らかいお肉がたまらない一品。 外に東屋があり、那覇の街並みを一望しながら食べられる。お庭はNHK連続テレビ小説「ちむどんどん」でも使われており、まるでここだけ時間がゆっくり進んでいるのでは…と思えるほど、昔懐かしい雰囲気。 地域の人から、観光客まで幅広い年齢層に、長年親しまれている。