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晴れ時々、首里 Vol.18 人と暮らしを見守る石獅子

カン、カン、カン、カン。
車の音にまぎれながら時折聞こえてくる音を頼りに、首里の鳥堀交差点から儀保に下る坂の途中にそのお店は見えてくる。彫刻家の若山大地さんと妻の恵里さんが営む工房兼お店の「スタジオde-jin」さんだ。

(※青いのれんが目印です。)

「こんにちは~。」の声と共に靴を脱いで畳に上がると、大地さんが一点一点手作りで制作している『石獅子(いしじし)』たちが、ぐるりと周りを囲む。一つとして同じものはなく、“すまし顔”、“ひょうきんな顔”、“きりっとした顔”、等々、様々な石獅子がこちらを眺めている。

(※「石獅子(いしじし)」とはその名の通り石彫りの獅子のこと。沖縄では「村落獅子(そんらくしし」と呼ばれる集落の人を悪霊や火事から守るためにつくられ、現在も崇められている石獅子が存在している。また、皆さんご存じの沖縄のシーサーのルーツではないかと云われています。)

そのなかでも、一点の石獅子に目が行く。どこか懐かしさを感じ、じーっと眺めていると、ふいに小学校時代に、いつも友達たちと待ち合わせをしていた公園のシーサーを思い出した。ゴツゴツとした形に厳めしい顔。けれど、見守ってくれているような、そんな安心感を感じるシーサーにもたれかかりながら、いつも遅れてくる友人を今か今かと待っていた、あの懐かしい記憶がよみがえり、思わず笑みが浮かんだ。

「みんな顔がちがうでしょ?」そう声をかけてくださったのは恵里さん。
続けて、「私が作ったわけではないけれど、見ているとなんとなく(大地さんの)彫っている時の気持ちが分かるような気がする。楽しく作れたんだな~とか。」と、話す恵里さんの目は我が子を見つめる母のように優しく温かく感じた。

(※恵里さんお気に入りの石獅子。どこか楽しげで愛嬌のある顔をしている。)

そんな、どこか『懐かしさ』を感じさせてくれる作品を作る大地さんは、沖縄で生まれ、愛知で育った。「いつか絶対に沖縄に住む!」と、決めた大地さんは、県立芸術大学に進学と共に来沖。妻の恵里さんとは、同じ大学の『彫刻専攻』で出会った。卒業後も「大学卒業を理由に制作を辞めたくない。」という強い気持ちに突き動かされ、仕事をしながらコツコツと制作と展示会を行っていた。

そんな大地さんは2009年、友人に連れられ那覇市上間の村落シーサー(カンクウカンクウ)との出会いをきっかけに石獅子の存在を知った。「(村落シーサーの)存在をそもそも知らなかったんです。身近にあるのに知らなかった。しかも言ってしまえば、石を専門に扱っているのに…恥ずかしさもありましたよ。」そう話しながら、少し照れくさそうにこう続けた。「石獅子ってなんかユーモアな顔ですよね。それまでは、“彫刻は時間をかけて作るもの”って思っていたんです。だけど、その石獅子を見て、 “人を感動させるのは、時間や技術だけじゃないな”って思いました。」

「それに、僕が大好きな沖縄って何だったのかな?って考えた時に浮かんできたのは、小学校の夏休みに大宜味のおじぃの家で過ごした思い出でした。沖縄での何気ない日常が、自分の心に一番残るんです。そうすると、自分が制作したいのは(首里城で見るような)上等なものより、もっと暮らしに佇んでいるモノなんじゃないかなっていうのが、どこかしっくりきて…。それで、すっと僕の心に入ってきた『石獅子』を作りたいって思ったんです。」

しかし、制作を始めたころはどこかで「誰かが作った物の真似をしている」という罪悪感があったという。そんな時、友人の「良いものはまず真似る。それから自分なりに変えていったらいい。」という言葉に背中を押され、以来石に向き合いながらコツコツと作品を作り続けてきた。

(※制作中の石獅子たち。)
(※学生時代に自分で木を削りつけた柄が手になじむ、長年の愛用品。)
(※写真左:若山大地さん 右:若山恵里さん)

店内を見渡すと、その言葉通り、様々な石獅子が並ぶ。
飾らず、どこか温かみを感じる石獅子は、まるで大地さんの人柄のようにも感じた。

今も沖縄各地に残る「石獅子」。
「土地」や「神様」を守るのではなく、そこに住まう「“人々”と“暮らし”」を琉球王朝時代から見守ってきた。人の暮らしは時代とともに変わったが、大事な人・暮らしを守りたいという気持ちは、昔も今も変わらない。普段見慣れた風景の中にも、実は「石獅子」がいて、今を生きる私達の暮らしをそっと見守ってくれているのかもしれない。

【スタジオde-jin】
DATA:沖縄県那覇市首里汀良町(てらちょう)1-2 1階
TEL: 098-887-7466
営業時間:10:00 ~18:00
定休日:日曜日・不定休
公式HP:http://www.de-jin.com/
公式インスタグラム:https://www.instagram.com/studio.deijin/

彫刻家、若山大地(わかやま だいち)さんと妻の恵里(えり)さんが営む『スタジオde-jin』さんは、青いのれんが目印。大地さんが一点一点、琉球石灰岩を手彫りした「石獅子」や「シーサー」「石敢當」など、様々な作品を制作・販売している。大地さんが生み出すものは、一つとして同じ形・顔・雰囲気のものはなく、訪れた人の好みやその時の感情によって見え方が変わる。「石獅子」を製作するきっかけとなった「村落シーサー」を家族で回り、恵里さんは家族で行ったフィールドワークを元に、『見たい、聞きたい、探したい! 沖縄の村落獅子たち』という本も出版している。※絶賛販売中
首里に来た際はぜひ足を運んで頂き、世界に一つだけの守り神を探しに行ってみてほしい。(※ご来店の際は、公式インスタグラム、またはお電話にてご確認をお願い致します。)

取材後記

ふと足元に目を向けると、昔懐かしい「リグレイガム」の作品が置かれていた。
思わず、「わ~懐かしい!祖父のジーンズのポケットにいつも入っていて、私が“ガムちょうだい!”って言うと、くれたんです!」と話すと、「え!本当!?嬉しいな~!僕もこのガムは祖父を連想させるものなんです!」と笑顔で返してくれた大地さん。他にも、コンビーフハッシュや、ポーク、はたまたシーミー(清明祭)の時の祝い重等、小さい頃から慣れ親しんでいるけれど、どこか昔懐かしい“沖縄”をそこかしこに感じました。

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