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晴れ時々、首里 Vol.21 目を惹かれ、手に馴染み、くらしを彩る“漆工芸”

友人に誘われ、沖縄市工芸フェア『コザと工芸と私』に足を運んだ時の事。
ひと際人気なお店の一角に、静かな艶めきを放つ作品たちにふと目が留まりました。

近づいてみると、綺麗な木目に艶やかな黒・金・藍色がとても映えており、思わず「綺麗…」と呟くと、「ありがとうございます。こちらは漆をぬっているんですよ。」と返してくれたのが、漆芸ユニット『漆works三時茶※1まきのせ あずささん嘉数 ニニレさんでした。

日々のくらしを彩る漆工芸をコンセプトに、漆を使ったお箸、お皿、アクセサリーなどなど、今まで「漆といえば、お正月にだけ使う重箱」のイメージでしたが、そんな固定概念が見事に変わった瞬間でした。

さらに、作品に対する思いや、漆の可能性を楽しそうに話す優しい笑顔に夢中になり、あれもこれもと質問していくと、これまで知らなかった漆芸の面白さにすっかり魅せられてしまいました。

今回の「晴れ時々、首里」では、そんな自分の“好き”に真正面から向き合い、「漆芸」という未知の世界に飛び込んで奮闘する3人に、これまでの足取りとこれからのカタチを取材させて頂きました。

※写真:左から「まきのせ あずさ」さん、「よしだ みき」さん、「嘉数ニニレ」さん。

※1『漆works三時茶』
沖縄県高度工芸技術者養成研修 漆芸研修を経て、「漆工房ロイツ」の嘉数ニニレさん(漆芸研修 令和3年度生)、「漆のさんかく舎」のまきのせ あずささん(漆芸研修 令和3年度生)、「TRUNK site」のよしだ みきさん(漆芸研修 令和4年度生)からなる漆芸ユニット。


現在は3人で沖縄県豊見城市にある「おきなわ工芸の杜」にシェア工房を構えながら、漆を使った様々な作品を、日々作り続けている。

ものづくりへの憧れを目指して飛び込んだ「漆芸」の世界

── 皆さんは「沖縄県高度工芸技術者養成研修」を経て活動をスタートしたとの事ですが、研修に入る以前からものづくりに関わるお仕事に携わっていたのでしょうか?

まきのせ あずささん(以下、あずささん):いえ、私はずっと販売のお仕事をしていて、研修に応募する前は、一部工芸品を扱う雑貨屋さんで働いていました。そのため自然と接する機会は多くて、だんだんと“ものづくりって良いな” “沖縄の工芸に触れてみたいな”って思うようになりました。そのタイミングで、勤めていたお店が閉店することになり、それならこれを機にものづくりに行っちゃお♪という本当に軽い気持ちで、研修生に応募しましたね(笑)

よしだ みきさん(以下、みきさん):私も小さい頃からものづくりは好きでしたが、仕事にする勇気がなくて、一度は全然違う仕事をしてみました。でも、やるなら今しかないかもと思い、カバン屋さんに転職して5年ほど働きました。 ですが、せっかく沖縄にいるのなら、沖縄の工芸に関わる作り手になってみたいという気持ちがだんだんと湧いてきて、そんな時にネットで「研修生募集」のページを見つけて、勉強できるところがあるのならやってみよう!と思い立って、この世界に飛び込んだ感じです。

嘉数 ニニレさん(以下、ニニレさん):私は元々服飾の方に興味があったので、服飾関係の学校に進学し、学校を卒業してからは東京の宝飾関係の会社に就職して働いていました。

そこから沖縄に帰ることになり、今度はマーケティングの会社に就職しました。
ですが、やっぱりものづくりのような、生涯現役でずっと続けていられる仕事がしたいと思うようになり、そんな時に新聞で、首里城復建の職人の数が足りないと取り上げられているのを見て、もしかしたら憧れの職人として入り込める余地がここ(漆芸)にはあるのではないか?と思うようになり、研修生に応募しました。

学んだからこそ見えて来た、“ものづくり” の方向性


── ユニットを組もうと思ったきっかけを教えてください。


あずささん:研修が終了した後、初めは自宅で制作していたんです。でも、1人で制作していると、いつの間にか動画を見ちゃったり、作業の合間に洗濯物を回しちゃったりとか、うまくメリハリもつけることができませんでした。お家にはたくさんの誘惑がありますから(笑)

そこで、研修の時から目指す方向性が似ているなと感じていた同期の彼女(ニニレさん)に、「工芸の杜で工房に入る人を募集しているんだけど、、、一緒にやらない?」と、まるで告白のような感じで声をかけたのがきっかけですね (笑)


ニニレさん:そうだったね(笑)
一緒にやるのが決まった後は、広めの部屋をシェアして借りた方がコスト面でも助け合えるよねって事で、ちょっと広めの部屋を借りて、スタートしました。


あずささん:孤独になりやすい制作期間も、こうやって気軽に話しながらできますしね (笑)


ニニレさん:本当そうだね(笑)

── みきさんをお誘いするきっかけを教えてください。

ニニレさん:みきさんは、去年の研修(2022年4月スタート)がスタートした後に、私たちを教えてくれていた先生が、「今年の研修生だよ。」と連れて来てくれたのが、最初の出会いでしたね。


みきさん:そうですね。丁度、去年の今頃ぐらいに挨拶させてもらいました。


あずささん:ここの工房は、みなさん(他の工房の方や、研修生の方、先生方など)がちょこちょこ遊びに来てくれるので、色んな方とお話しする機会があるのですが、実はものづくりの世界ってとても狭い世界で、知り合いの知り合いだったり、知らない人も知り合いぐらいの距離感なんです(笑)なので、みんなで助け合っていこう。みたいな雰囲気もあり、割と交流が盛んだったりします。


ニニレさん:そんな中で、「よしださん、良くない?」って話していたんだよね?(笑)


あずささん:「なんか良いよね♪」って話してたね(笑)

ニニレさん:初めは人柄に惹かれていたのですが、出来上がった作品がこれまたすごく素敵 で、「作品もすごく良いよね!」と盛り上がっていました。


みきさん:すごい褒められてる(笑)

あずささん:それに偶然ですが、作品の方向性が私たちとすごく似ていたんです。 伝統を重んじるか、自分たちに近い世代が気軽に使いやすいものを作りたいかで、作るものって結構変わるのですが、本当偶然にも似ていたので、「よかったら一緒にやらない?」と声をかけたところ、快く承諾していただけて今にいたります。

学べば学ぶほど、奥深い魅力にはまっていく

── 漆芸を学び始めて、驚いたことを教えてください。


みきさん:そうですね、以前は漆器というのは木に何度も漆を塗り重ねていくものだと思っていました。ですが、木の代わりに麻布と漆を何度も塗り重ねる乾漆(かんしつ)※2という技法を使って作ることもあるんです。強度はあるのにとても軽いので、よくプラスチックと間違われてしまうのですが、それくらい漆は色んな使い方や技法があるんだと、驚きました。

※2 乾漆(かんしつ)器物などの素地 (きじ) 製作法の一つ。 木、土、石膏、などの型を使って、麻布などを漆糊 (生漆に姫糊を混ぜて作る) で張り重ねて素地を作る方法。
※写真:上記と同じく乾漆という技法を用いて作られたお皿。驚くほど軽く、しかも丈夫。



ニニレさん:あと、漆は肌がかぶれるというのは、知識としてはもちろん知っていましたが、自分が想像していた何10倍もすごい痒みでした。


あずささんみきさん:無言の頷き。


あずささん:面接の時に先生から「マンゴー食べられる?」と聞かれたんです。
それで「食べられます。どうしてですか?」と尋ねると、「マンゴー食べてかぶれる人は、漆もかぶれるから。」と言われて、「それなら私は食べられるから、大丈夫じゃん!」と、甘くみていたんです(笑)

先生に「漆には素手で触れちゃいけないよ。作業の時は必ず手袋しなさいよ。」って言われていたのですが、「私はかぶれないから大丈夫♪」と素手で作業しちゃったりして、、、

それで、本当夜も眠れないぐらい痒くなっちゃって…。1番初めの衝撃はそれですかね(笑)
今でも思いますが、先生のあの質問は絶対やめた方がいいと思いますね (笑)


ニニレさん:漆科のマンゴーが大丈夫なら大丈夫って、あの質問は油断させるよね(笑)
私も甘くみていたので、本当に5~6日寝込むほどかぶれちゃいました。冷やして薬も塗るけど、本当に痒くて寝られなかったですね。寝ていても自分で搔いているので目が覚めちゃって…。先生の言うことは聞くものだな…と実感しましたね (笑)

表からは見えない「時間」と「根気」

── 1つの器を作るまでに、どのくらいの時間がかかるのでしょうか?

ニニレさん:その時の気温と湿度に左右されるので、正確に何日とは言えないのですが、大体次の工程に行くまで、最低で1日はかかります。研いだ日に塗ることはできますが、一度塗ると漆が完全に乾くまで待たないといけない。そうすると乾くのに1週間かかるときもあります。

漆は時間をかけることで芯まで乾くとされているので、内側までしっかり乾燥させるのがとても大事ですね。

※写真:完成までの工程を見れる板を持つみきさん。

── ドライヤーや乾燥機などを使って、乾燥を早めることは出来ないのでしょうか?


あずささん:乾かすという表現をしていますが、実際は硬化させている感じです。
レジンをUVライトで固まらせているのをイメージすると分かりやすいのですが、ドライヤーのような熱での乾燥ではなく、気温が20~30度の間で、尚且つ湿度が60~80%の間が、1番乾きやすい(硬化しやすい)んです。

なので、気温が低かったり、乾燥していると、いつまでもベタベタしています。


── では、気温や湿度が低い時はどうしていますか?


ニニレさん:壁に霧吹きで水をかけて湿度を上げたりします。それなら加湿器使えそうと思いますよね?ですが、加湿器を直接かけるのはダメなんです。綺麗に乾かないらしくて、、、本当、なんで!?って思いますよね?(笑)


あずささん:しかも、漆器は直射日光もNGですし、外に出すとゴミが付着することもある。
なにより漆器は乾いてからしか結果が分からないため、綺麗に乾いた後にゴミが付着したのが分かると、また全部を削って、もう一度塗り直しなんてことも…本当に多くの過程と時間、そして根気が必要ですね。

── 完成した後は、すぐ販売できるのですか?


みきさん:漆器ですと、やはり口などの弱い部分に当たるものなので、完成から少なくとも1ヶ月ぐらいは置いています。肌に触れるアクセサリー類も、皮膚が薄いところ(耳たぶや首元など)にずっと触れるので、念のためにもう少し長く置いていますね。

漆のもつポテンシャルは無限

── 漆芸を学ぶ前と後で、心境は変わりましたか?

あずささん:そうですね、本当に何も知らない状態で入ったので、入ってから知ることがすごく多かったのですが、例えば、「漆器」って聞くと、ツヤツヤの赤と黒の器というイメージがあったのですが、漆は天然の樹脂からできているので、意外と色んな事が出来たり、使えたりするんです。

接着剤としても使えますし、顔料を混ぜれば、顔料の数だけ色も作れる。それこそ最近では建材として利用されたり、漆塗りアクセサリーや和小物類として取り入れたりと、いろんなことに活用できるんです。

この漆がもつポテンシャルって、中々知られていないですよね?
以前は私も知らなかったように、知っていただけるとより興味を持つ方も増えると思いますし、漆の面白さを、もっともっと伝えていけたらいいなという思いが、より強くなりましたね。


ニニレさん:ちょっと下世話な話ですが…漆器って高いなぁってイメージないですか?私もよくそう思います。(笑)ですが、ただの木の状態から皆さんが想像するツヤツヤの漆器の状態(いわゆる琉球漆器)に仕上がるまでに、大体35工程ぐらいあるんです。

木地の表面を磨いて、穴や傷を埋めて、布を張って補強したり、磨いて塗ってを何度も繰り返す。
細かい工程を丁寧に何度も何度も繰り返していかないと完成しない。

1つの漆器を仕上げるまでに、表面からは全く見えない部分にこれだけの時間と労力が隠されていると知った時は衝撃を受けましたし、それはこれだけの対価がかかると深く納得しましたね。

「ものづくり」を通して感じる喜び


── この仕事を通して喜びを感じる瞬間を教えてください。

あずささん:単純に 自分の好きなものづくりが出来ている時間に、ただただ、感謝です。
本当、まだまだ若手なので家族の支えがあってこそなんですが、旦那さんが、「別に気にしないでいいよ。やりたいことをやりな。」と言って応援してくれる事が、本当に感謝だなと感じながら塗る瞬間とかありますね。


ニニレさん:うわ~、その言葉、ほんとありがたいね(笑)


あずささん:後は、思い通りに綺麗な商品が完成して「え!これめっちゃいいじゃん!」となった時に、思わずテンション上がりますね。


みきさん:そうそう!(笑)


ニニレさん:よし、よし、最高ってなるよね (笑)
それと、ここ1年で色んなイベントに出させて頂いて感じたのですが、見ず知らずの人間が作ったものを「これ買います。」と、言ってくださる人がいたり、直接良いと言っていただける人がいる。それはとてもありがたいことだと思っていて、そんな方にイベントでお会いすると、毎回「本当ですか!?ありがとうございます!」という気持ちになります。それに、あの瞬間は何度経験しても、心からやっててよかった。と思いますね。


みきさん:本当にそうですね。わざわざ工房に足を運んでいただけたり、イベントの際に目の前で喜んでくれる姿を見ると、この仕事をしていて良かったなと感じますし、それこそお客様とこうしてコミュニケーションが取れる環境があること自体、すごくありがたいと思っています。

“すき”を突き詰めて、見えてくるカタチ


── 今後、漆工芸を続けてく中での夢や目標、3人で描く未来のカタチを聞かせてください。

ニニレさん:琉球漆器業界が盛り上がっていた頃は、お土産品としてもすごく需要があり「やちむん市」ならぬ、「漆器市」があったそうですが、今は途絶えてしまっているんです。

近年漆芸に携わる方が増えているので、先人の先生方から、私たちのような若手まで、皆で「ぬいむん市」や「漆器祭り」のような『漆工芸品』が主役のイベントを開催出来たらいいなと、思っています。


あずささん:私はすべて漆器のお茶会をやりたいですね♪漆器は見た目が綺麗なだけじゃなくて、こういう良いところがあるんだと、実際にその場で良さを実感して頂いて広めるみたいな。そういう楽しい事をやりたいよねって話をしていました。ね?


ニニレさん・みきさん:本当、早く実現させたいね!(笑)


ニニレさん:3人で描く未来のカタチですが、今のメンバーになって約1ヶ月が経ちましたが、すごく良い空気とほどよい距離感が保たれているんです。なので、この距離感を保ちつつ、これからも皆で楽しく漆工芸に携わっていけたらと思いますね。

取材を通してより深く感じたことは、『好きこそものの上手なれ』ということ。

大人になるにつれて、自分に正直でいるのも、すきを持ち続けるのも難しい時があります。 そんな時、彼女たちの作ったものを手に取ると、机に向かう真剣な姿や、作品を語るキラキラした瞳、楽しそうに自分のすきを語る姿を思い出し、そこに宿る “すきにまっすぐ”な気持ちに感化され、私も頑張ろう!と思う気持ちをもらえます。

目を惹かれ、手に馴染み、自分の暮らしを彩る。
そんなものと日々の暮らしを送りながら、私も自分の“すき”に、いつまでも正直でいようと、そう思いました。

首里石鹸 中里ゆきこ

【漆works三時茶】
■DATA:〒901-0241 沖縄県豊見城市豊見城1114−1 おきなわ工芸の杜【B-03】
■営業時間:10:00-17:00
■定休日:不定休
■公式インスタグラム:https://www.instagram.com/urushi_works.sanjicha/
■駐車場:有り ※建物下、駐車場

※工房の為、制作状況によってはご案内出来ない場合もございます。ご来店前にインスタグラムでのご確認をよろしくお願いいたします。

~取材後記~

後日YouTubeの動画撮影の際に、沈金体験のワークショップをさせて頂きました!説明を受け、選んだモチーフの転写が完了した後、いざ練習用の手板に刃を当て滑らせると、、、全然きれいに線が引けない!!

隣に並ぶお手本線を見た後、自分の線のぎこちなさに思わず笑ってしまいました。

職人さんを取材する際は、毎回“難しい作業がまるで簡単に見える”んです。
それは、その方が今まで経験した事を自分の技術と知識として積み上げてきたからだと気づくたびに、改めて、ものづくりの素晴らしさと、職人さんへの尊敬の気持ちがこみあげてきます。

皆さんもぜひおきなわ工芸の杜に足を運び、『漆works三時茶』さんで、沈金体験をしてみてください♪

※沈金体験のワークショップをご希望の場合は、3日前までにインスタグラムのDMからご連絡をお願い致します。


Youtubeショートでも配信中!

首里石鹸の公式Youtubeサイトでは、今回取材を快く受け入れてくださいました『漆works三時茶』の皆さんと弊社の甲斐ちゃんが楽しく三時茶&ワークショップを体験しております。ぜひ合わせてご視聴いただけますと嬉しいです♪

公式Youtubeはこちら