Blog

晴れ時々、首里 Vol.24 受け継がれていく、“家族の味”。

「ゆし豆腐」と聞き、一番はじめに思い浮かべるのは祖父。

昔から豆腐と魚と芋が一番好きで、「これがあれば、ご馳走さぁ。」と口癖のようによく呟いていた。

仕事が休みの日には、朝早くに近所のお豆腐屋さんに鍋をもって行き、あちこーこー(出来立て)のゆし豆腐を買ってきては、私たちに食べさせてくれた。

子どもの頃は、「豆腐じゃなくて、たまにはマックとか食べてみたいな…。」と思ったりもしたが、私と弟が食べてる姿を嬉しそうに眺める祖父と目が合うと、「美味しいね。」としか言えなかった。

しかし、なんだかんだ思っていても、完食する頃になるとお腹だけでなく心までぽかぽかで満たされた気持ちになっている。慣れない方言で「またんゆたしく、うにげーさびら(また、お願いします)!」と言うと、笑いながら大きなあたたかい手で頭をぽんぽんと撫でてくれた。

大人になった今では、「美味しいお豆腐もってきたよ~!」と、私が祖父に豆腐を買ってくるようになった。

渡すたびに、「いいねぇ。ありがとう。」と嬉しそうに言ってくれる祖父をみていると、あの頃の祖父もこんな気持ちだったのかな~と思い、なんだか嬉しい気持ちがこみあげてくる。

たまにたて続けに買ってくると、新しもの好きの祖母には「そんなにひっちー(頻繫に)買ってこなくていいんだよ。」とやんわり言われるのだが、美味しいお豆腐屋さんを見つけると、とたんに祖父の顔が浮かんで買わないではいられなくなるのだ(笑)。

そんな懐かしい記憶と、あたたかな気持ちを久しぶりに思い出したきっかけは、糸満市座波(ざは)にある「ざはとーふ」さんに出会ったことから。

店主の赤嶺英明(あかみね ひであき)※1さんが、昔ながらの地窯製法で丁寧に作るお豆腐は、大豆の味が濃く、滑らかで、食欲の無い時でもするっと食べれてしまう。

※1 以下「英明さん」と称する。

材料は「大豆」と「水」と「にがり」の3つだけ。
とてもシンプルだが、シンプルだからこそ、素材の美味しさがよくわかる。

創業した20年前から通う常連さんの中には、「ここの豆腐を食べると、よその豆腐は食べれなくなるよ。」と言う人もいるほどだ。

「なるべく出来立ての美味しい豆腐を食べてほしいから。」という言葉の通り、月曜日から土曜日まで、毎朝1人で豆腐作りを続けてきた英明さんの真剣なまなざしは、美味しいお豆腐を届けたいという熱い思いが浮かんでいた。

写真:毎朝7時から豆腐作りがはじまる。

英明さん うちは今でも伝統的な「生絞り製法※2」で豆腐を作っています。本当は一般的な「煮立て搾り製法※3」で作った方が、たくさん作れるんですが、沖縄の伝統的なものは残していかないといけないと思ってね。もしかしたら、これから先少しずつ(伝統が)変わっていくかもしれません。それでもなるべくは昔からの伝統の作り方を守るようにしています。基本を忠実に守っていけば、味が変わることはないと思っているので。なのでこれからも、祖母・母が作っていた豆腐の味を守り続けていきたいですね。

※2 生しぼり製法とは、豆腐の原料になる大豆を生のまま搾ることによって、大豆中の苦味やえぐみになる成分を取り除く製法の事を言います。そのため、生しぼり製法で作られた豆腐は「大豆の甘み・うま味」がより一層感じられます。

※3 煮立て搾り製法とは、大豆を煮て搾ってから豆乳を取る製法で作られます。煮立てて搾った豆乳に、ニガリを加えて固めていく方法で、一般的なお豆腐はこちらの製法を用いて製造しています。
写真:鍋に呉汁(ごじる)をいれる英明さん
写真:呉汁を煮ると出てくる泡
写真:にがりを入れる英明さん
写真:表面に出来てきている薄い膜が湯葉(ゆば)

英明さん うちは祖母から豆腐屋をはじめて、母親、自分と、3代豆腐屋をしていますが、実はお店の場所も、名前も全部違うんです。祖母は那覇市寄宮の方でやっており、母親からは国場の方でやっていました。そして、自分から今の場所(糸満市座波)ではじめました。

今も2人から受け継いだ味を守ってはいますが、祖母も母も、勘と経験で豆腐作りをしていたので、同じ島豆腐にしても、その日その日で味が変わっていました。昨日は良かったけど今日いまいちとか(笑)。

口には出しませんが、良いものを安定して作ろうと思うと、やはり勘では上手くいかないと思い、母が目分量で入れようとするものを全て計って統計を取りだしました。

ある程度統計が取れてきたところで、出来の良かった日の割合等を色々と試行錯誤して、今のざはとーふの島豆腐が出来上がりました。

そんな豆腐作りに真正面から取り組む英明さんだが、実は一度豆腐屋を辞めた頃があった。それは英明さんが20代後半に差し掛かろうとしていた時、ふいに「豆腐屋以外の事もやってみたい。」という思いが浮かんだ。その頃は完成したレシピで(英明さんの)母と一緒に豆腐屋を切り盛りしていた。だが、美味しい豆腐が安定して作れるようになった事から気持ちに変化が生まれたという。

英明さん それまでは、祖母と母が作ってきた美味しい豆腐を安定して作れるようになりたいと、日々実験と失敗の積み重ねでした。ですが、レシピが完成して安定して作れるようになると、なんだかそれまでがむしゃらに進んできた気持ちに一区切りがついたような気がして…。それで、次は違うことに挑戦してみようと思うようになり、豆腐とは全く関係ない会社に就職しました。

忙しい日々を送る中で、「座波とーふ」としてものづくりの道を再出発する機会が訪れたのは、結婚がきっかけだった。

義理の父に、母も祖母も豆腐屋をしていた事、毎日試行錯誤して、ようやく美味しい豆腐が作れるレシピが完成した事などを話すと、「そんなに頑張って“家族の味”を残しているのなら、うちの実家(座波)で、もう一度豆腐屋をはじめてみてもいいんじゃない?」と言われた。

そんな義父の一言が心に残ると共に、あの挑戦し続けた日々を思い出し、「もう一度、豆腐作りをしてみたい。」と思うようになり、再度お店を開くことを決心した。

英明さん 場所もあるし、以前作り上げたレシピもあるからと、どこか楽観的に考えていましたが、いざ始めるとそう上手くはいかなかったですね。

来る日も来る日も理想の味と柔らかさを出すために豆腐作りに没頭しました。どこどこのお豆腐が美味しいと聞けば、食べにいったりもしましたね(笑)。

豆腐作りで1番難しいのは、にがりの調整なんですよ。入れすぎたら固くなるし、少ないと箱から出したら時に型崩れして商品にならない。ブランクもありましたし、レシピに記載されている以外の細かい加減(最適な入れ時の見極めなど)を忘れてしまっていたので、それをつかむまでがとても大変でしたね。
今でも新しい豆※4で作りはじめる4月5月は緊張しますし、細かい微調整は必ず必要ですね。

※4 市場に新しく収穫した大豆が入ってくるのが4月、5月。その年によって、豆の質や味が変わるため、ざはとーふにぴったりな大豆を探す所からスタートする。
写真:出来上がった豆腐に優しくお玉を入れる英明さん
写真:ゆし豆腐を袋に詰めていく
写真:ゆし豆腐を型にたっぷり詰めていく
写真:慎重に圧力をかけ、水気をきっていく

そうして、英明さんがこの地ではじめた「ざはとーふ」は開業20年を迎え、今では遠く沖縄市から訪れるお客さんもいるという。そんな英明さんに、最近の嬉しかったことはと尋ねると、

英明さん お客さんの言葉ですね。「ここの豆腐を食べたらどこも食べられないさ。」って言ってくれたり、「ここの豆腐は、何も入れなくても食べらるくらい美味しい。」って言ってくれます。あと、いつもは寡黙で何も言わないおじさんが、「やったー(あなた)の豆腐、まーさよ(美味しい)。」ってボソッと言ってくれたりすると、心の中でガッツポーズしています(笑)。

昨日も、常連のお客さんが最近見かけなかった娘さんを連れて来ていたんです。しかもしばらく見ないうちに中学生になっており、思わず「大きくなったね~」って声かけたら、お母さん(常連さん)が「覚えててくれたんだね!よかったさ~!いつもここの豆腐食べてるから、こんなに大きくなったんだよ♪」と、凄く喜びながら言ってくれました。娘さんは照れ笑いしながらも頷いていて、なんだか胸がいっぱいになって、家に帰ってから妻にも話しました(笑)。

こういうお客さんとの何気ないやり取りや、嬉しい言葉を頂けるからこそ、「美味しいものを食べてほしい!」っていう気持ちが強くあるんだと思いますね。

少し照れくさそうに、だけど嬉しそうに話す英明さんの笑顔にこちらまでつられて笑顔が浮かぶ。飾らない人柄と、豆腐作りに真剣に取り組む姿を見るたび、きっと英明さんからお豆腐を買いたくて訪れる方も多いのだろうと感じた。

写真:豆腐作りが終わると現れる直売所

取材が終わり、何気なく英明さんに今後の夢をお聞きすると、少し恥ずかしそうに「行列のできる豆腐屋さんにすることかな。」と呟く。さらに「最近はあちこーこー(出来たて)豆腐そのものがどんどん減ってきているし、中には食べたいのに販売している所がなくて買えないという声も度々耳にする。そうやって少しずつ自分が小さい頃から食べていたものが無くなっていっちゃうのってすごく悲しいんだよね。だからこそ僕は大変だけど、あちこーこー豆腐を作り続けているし、“美味しかった!また食べたい”って思ってくれた人が来続けられる場所でありたいんだよね。」と、教えてくれた。

そしてそんな言葉を聞いたそばから、「こんにちは~!豆腐、まだあるね~?」の声が響き、英明さんと顔を見合わせて笑った。

購入したあちこーこー豆腐と共に帰路につきながら思い浮かべるのは、祖父が買ってきたゆし豆腐を家族で囲んだ笑顔の食卓。ふいに、「美味しものはみんなで食べるから、もっと美味しいさぁ。」という祖父の声が聞こえた気がして、「本当だねぇ。」と笑みがこぼれた。

首里石鹸 中里ゆきこ

【ざはとーふ】
■DATA:〒901-0314 沖縄県糸満市座波98
■営業時間:9:30~17:00 ※売り切れ次第終了となる場合もございます。
ゆし豆腐(9:30~)、島豆腐(12:30~)、豆乳スムージー(14:00~)
※生豆乳、おから、じーまみー豆腐もご購入いただけます。
※現在、豆腐作り体験や工場見学などは、行っておりません。
■お電話:098-992-1819
■定休日:日曜日
■駐車場:店舗前に有り

~取材後記~

朝早くから取材をさせていただく中でも、笑顔で気さくにお話ししてくださった英明さん。
YouTubeでは、弊社の甲斐ちゃんが看板娘に変身し、豆腐作りをお手伝いさせていただきました。あちこーこー豆腐の美味しい食べ方もご紹介しますので、ぜひYoutubeショートも合わせてご視聴いただけますと嬉しいです♪