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晴れ時々、首里 Vol.29 出会いが紡いだ「縁の糸」

雨の音を心地いいと感じるようになったのはいつからだろう?

以前は「雨の日=なにもできない日」と思っていたのだが、いつからか「雨の日=心身ともにゆっくり過ごす日」となった。

いつもは出来ないちょっと手の込んだ料理を作ってみたり、友達からおすそ分けしてもらった珈琲をハンドドリップで入れながら、香りを楽しんでみたり、以前から気になっていた部屋の模様替えをして、コツコツ集めているお気に入りのポストカードを飾ってみたりと、ゆったりとした時間の中で自分自身の事、すきな事・もの、やりたい事、と向き合える大事な時間なのだ。

そしてそこに「手刺繡」が追加されたのは、つい先日「手刺繍existence(イグジステンス)」さんのワークショップに参加したのがきっかけだ。

沖縄市のカフェ(珈琲ロマンさん)の一角で、雨の音と珈琲の香りをお供に一針一針丁寧に刺繡をする時間は、何とも言えない幸福感と充実感、そして自分とその空間にあるものすべてが馴染んでいくような、不思議な癒しを感じた。

▲ 色とりどりの刺繡糸と素敵な図案に、皆の目が輝いていました。

「一緒にいるけど、ひとりの感覚もある。この雰囲気がとてもすきなんです。」

そう話してくれたのは、手刺繍existence(イグジステンス)として活動している手刺繡作家の橋本 あき菜(はしもと あきな)さんだ。

※以下「あき菜さん」と称する。

元々趣味で始めた刺繡を、作家をしている友人に「商品として作ってみたら?」と言われたことが作家活動のきっかけだった。丁寧に作ってはいたものの、はじめは作品を売り出すことに不安もあったという。

あき菜さん  友人の言葉に背中を押されて自分の作った作品を出してみたら、わりとすぐにご購入いただけたんです。それがすっごく嬉しくて…。この喜びがあるからこそ、今も続けられているんだとおもいます。

▲ 様々な作品があるが、どれも細かく丁寧に作られている。
▲ パレスチナ刺繍のマース(塩)お守り。

細かい模様も綺麗に刺していくあき菜さんだが、実は学生時代はミシンや裁縫が本当に苦手だったという。

あき菜さん  昔から何かを作るのは好きで、小学生の時は折り紙でサイコロや手裏剣などを作っていました。でも、ミシンや裁縫は本当に苦手で…中学校時代は、家庭科の評価が2でした(笑)。高校で編み物にハマり、棒針でマフラーやセーターを編んでいました。20代前半は忙しい毎日を過ごしていて、モノづくりから離れていましたが、少し落ち着いた20代半ばにまたモノづくりをしたくなり、かぎ針でアクセサリー制作を再開しました。

あき菜さんの作品は、普段の暮らしの中にも取り入れやすく、見るたびに幸せな気持ちにしてくれるというのが数ある魅力のひとつなのだが、実はブランド名にもこんな思いが込められている。

あき菜さん  existenceは『存在する』という意味なんです。わたしの作品を購入してくださった方の暮らしに、すっと作品が”在る”ものとなりますように。という願いを込めてこの名前にしました。

▲ 可愛いハチドリが印象的な名刺。

あき菜さん  作品を作る際は、クオリティ、再現力ももちろんですが、一目でexistenceの商品だとわかることを意識しています。特にオーダーを頂いた際は、お願いしてくれた方の想いに応えたいという気持が強くて、想像以上の仕上がりになることも(笑)。あまりの細かさに、「これって本当に手刺繍なの?」と驚かれる方も多くいらっしゃいます。ちょっと変わっていますが、“これ、ヤバいね。”って言われるとすごく嬉しいです。

作品を通して、お客さまに驚いたり、喜んでほしいと話すあき菜さんに、思い入れのある作品を聞いてみました。

あき菜さん  2020年の暮れにあるお客様から、大阪にあるパン屋さんにプレゼントをしたいと、オーダーエプロンのご依頼を頂きました。色やデザインも「お任せします。」と仰っていただき、フリーステッチで悩みながらも数ヶ月かけて完成。出来上がったエプロンをお見せすると、とても喜んで頂きました。
それからだいぶ月日が経ちましたが、ついに昨年、大阪でイベント出店があった際にお店(パン屋さん)を訪ね、3年振りにあの時のエプロンと再会できました。プレゼントされたお店(パン屋さん)の方も、大切に使っていただいており、とても嬉しかったと共に、またひとつ作品を通して素敵な出会いに繋がりました。

制作した作品にはすべて思い入れがありますが、素敵なお客様との出会いや、作品を通じて新たな繋がりを感じると、さらに思い入れが強くなりますし、作家活動をしていて本当に良かったなと感じますね。

そんなあき菜さんは、実は秋から大阪にお引越しをし、更に活動の幅を広げる予定とのこと。(沖縄と大阪を行き来する2拠点生活)

あき菜さん  ありがたいことに、県外在住の方でも「(existenceを)知ってます!」と言ってくださる方がいて、しかも県外での出店イベント時には会いに来てくれる方もいるんです。そんな方たちと、もっと交流を深めたい+いろんなものを見たり刺激を受けて作品や活動の視野を広げたい!という気持ちが強くなり、今回の2拠点生活に踏み切りました。

ゆくゆくは、個展や色んなつくり手さん達とイベントを開催したり、刺繍好きな方がいつでもゆっくり刺繍できるアトリエを沖縄に作るのも夢なんです。

▲ 県外イベントにて、手刺繡ワークショップも開催。

ご自身の「すき」や「やりたいこと」に真っ直ぐなあき菜さん。そんなあき菜さんに、沖縄の魅力について聞いてみました。

あき菜さん  1番はやっぱり人が温かいことですね。
イベンターさんもつくり手さんもワークショップに来られる方もお客様も、どこに行っても皆さん優しいんです。この環境だからこそ、ストレスなく活動できているのだと思います。
後は自然が生活の中に当たり前にあること。徒歩で海に行けるし、ちょっと車走らせれば森にも行ける。繁忙期終わりは、穏やかな時間の流れってに身を任せて、自然をゆったりと眺めることで、気持ちも頭もリフレッシュできます。最近だと北部に行きがちですね(笑)。

人と人との出逢いは偶然でも、必然でもあると思っています。

はじめは糸のような細い繋がりが、交流や時間を重ねることで、いずれ「縁の糸」になっていく。様々な経験の中で、人との出会いを大切にしてきたあき菜さんだからこそ、作品を通してもそのあたたかさや優しさが伝わるのだと感じました。

「ちぬぐくる(真心・思いやり)は言葉にしなくても伝わるんだよ。」

いつか祖母が呟いた言葉を思い出しつつ、わたしも「縁の糸」を大事に紡いでいきたいと思います。

首里石鹸 中里ゆきこ

【手刺繍existence(イグジステンス)】
■公式インスタグラムはこちら
※イベント出店情報及び取り扱い店舗、また手刺繡ワークショップの開催日及びご予約に関しては、公式インスタグラムにてご確認ください。

~ 取材後記 ~

ワークショップで場所を提供していただいた「喫茶ロマン」さんの看板も、実はあき菜さんが制作したもの!レトロで落ち着く店内にマッチした看板から眺める店内は、なんだかとてもノスタルジックな雰囲気で、入る前からワクワク♪「珈琲もお料理もどれも美味しいですよ!」との言葉にワークショップが終わってからも、雨の街を眺めながらのんびりさせていただきました。そんなあき菜さんの手掛けた「刺繍看板」をお持ちのお店や作家さんが集まるイベントが、11月頃に開催予定だそうです!勢揃いした作品を見られる貴重な機会ですので、ぜひ気になる方は足を運んでみてください♪
※イベント詳細は、あき菜さんの公式インスタグラムをご確認ください。

首里石鹸 公式YouTubeにて
「晴れ時々、首里」の動画も絶賛配信中!

YouTubeでは、おなじみ弊社の甲斐ちゃんが手刺繡ワークショップを体験もしておりますので、ぜひYoutubeショートも合わせてご視聴いただけますと嬉しいです♪