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晴れ時々、首里 Vol.30 笑う芋には福来たる

お盆の楽しみと言えば、普段なかなか会えない親戚と再会し、思い出話に花を咲かせることですが、私がさらに楽しみにしていたのは、お盆にしか食べられない料理たちでした。

重箱料理や、天ぷら、ジューシー(沖縄の炊き込みご飯)、汁物料理に果物、お菓子等々を綺麗に並べて仏壇にお供えし、お線香の香り漂う中、皆でウートートー(手を合わせる)。おじさん(祖母の弟)が「ウサガミソーレー(お召し上がり下さい)」と呟く声や、祖母がぼそぼそと方言で挨拶や近況を話しているのを聞きながら、「わたしも早く食べたいな~。」なんて思っておりました(笑)。

暫くののち、おじさんが「ウサンデーサビラ(お供えしたものをいただきます)」と声をかければ、そこからは待ちに待った時間。兄弟姉妹や従妹と「いただきます!」と元気よく挨拶し、笑顔でほおばっておりました。

そんなお盆料理の中でもとりわけ楽しみにしていたのが、「田芋(たいも。方言ではターンム)の唐揚げ」。

素揚げされたターンムに、甘じょっぱい醤油ベースのタレを絡めた料理で、外はカリッと、中はほっくりな食感に、ついつい手が止まらなくなる美味しさです。

テーブルに登場するやいなや、兄弟姉妹と競うように自分のお皿にキープするのが、毎年の光景でした。

写真:ターンム(田芋)の唐揚げ

そんな大好きな田芋の畑を実際に見てみたいと思い、縁あって取材させていただけることになったのが、沖縄県金武町で田芋農家(笑う芋には福来たる)をしている金城 貴興(きんじょう たかおき)さんと、藤崎 真海(ふじさき まなみ)さん。

※以下「貴興さん」「真海さん」と称する。

真海さん「田芋が大好きなんです!」

貴興さん「美味しい田芋をもっと沢山の人に食べてもらいたいです!」

と話すお二人に、田芋の事、これまでの事、これからの事をお聞きしました。

写真:収穫した芋をひとつずつ丁寧に仕分けていく
写真:親芋(おやいも)。茹でた後は綺麗な紫色に変わる

― ちょこっと解説 ―

田芋は沖縄の特産品で、水の綺麗な水田で栽培されるタロイモの一種です。水芋(みずいも)とも呼ばれ、沖縄県では「ターンム」「ターム」と呼ばれ親しまれています。親芋の周りに子芋や孫芋が育つことから、子孫繁栄の縁起の良い食材とされ、お祝いの料理には欠かせない食材でもあります。沖縄県産の田芋は独特の香りと粘りが持ち味で、特にお正月やお盆料理に多く使われていますが、収穫までに1年近くかかるため、農家では逆算して植え付けているといいます。店頭では生ではなく、蒸した状態で販売されており、田芋を使った料理には、田芋をきんとんのように甘く練り上げた「ターンムディンガク」や、田芋、ムジ(田芋の茎)、豚肉、椎茸、かまぼこを短冊切りにし、豚だしでじっくり煮込み練り上げた「ドゥルワカシー」、出産祝いに作られた「ムジ汁(ムジ、豚肉、豆腐のみそ汁)」などがある。近年はパイやスイーツ作りにも使用されている。

写真:田芋餡がたっぷり詰まった田芋パイ

出会うべくして出会った

わたし  お二人が田芋に出会って、田芋農家になろうと思ったきっかけを教えてください。

貴興さん  一番はじめのきっかけは、地元(沖縄県金武町)が田芋の名産だったからです。小さな頃から身近にあったので特に意識することもなかったのですが、農業の勉強がしたくて「沖縄県立農業大学校」に通い、卒業後はどうしようかと思っていたタイミングで、田芋農家をしている先輩が「田芋いいよ。」と、声をかけてくれたのが二番目のきっかけです。本当に親切な先輩で、田芋農家になった後も色々教えてくれたり、手伝ってくれましたね。

真海さん  私は元々千葉県出身で、大学でタロイモを研究していたのですが、ある時知り合いの方に「沖縄に田芋って芋があるから、見に行った方がいいよ。」って言われて、ここ金武町に来たのが田芋に出会うきっかけです。元々大学の先生には、「田芋畑はどんどん減っていて、昔の水田がひろがっていた景色は、今は残ってないよ。」と、言われていました。実際に足を運んだ宜野湾市では、都市化が進んで、元々田芋畑だったところも無くなっていました。ですが、その次に訪れた金武町では、今でも昔の水田を残している所があることにすっごく感動して。その時に、これからもこの風景を、田芋を、残せるような仕事に絶対就こう!って思いました。

今思えば、出会うべくして出会ったのかもしれませんね(笑)。

写真:太陽に向かいぐんぐん成長する田芋たち

「正解がない」だからいい

貴興さん  田芋って栽培方法が確立していないんです。農家さんたちそれぞれのやり方があったりして、仮に良い田芋を育てている方と同じことをしてもうまくいかなかったりする。なので、始めたころは「なにが正解なんだ…」と、悩むこともあったのですが、逆に自分で試行錯誤出来るんだ。って気づいてからは、楽しくなりました。今は、いつか自分たちなりのやりかたを確立できるよう、色々と試しながらやっています。

繫忙期に感じる家族のありがたみ

貴興さん  田芋は苗を植えたら1年畑に入れないかわりに、植え付けが終わるまでは、ほぼ休めないんです。収穫した田芋は、その日で「苗作り」、「カット作業」、「選別」、「芋洗い」をし、冷凍庫に入れなければならない。そうしないと、田芋が変色して商品にならないんです。なので、毎回、絶対に今日で終わらせないと。っていう緊張感がありますね。


真海さん  (貴興さんの言葉にうなずく。)それと、収穫と同時に次に植える苗の準備もあります。畑がいくつかあるので、それぞれ少しずつ時期をずらして植えるのですが、トラクターで土を整えた後は絶対に短期間で植えないといけないので、( 時間が経つと、土が固すぎて植えられない&雑草が生えてきてしまう)コツコツ苗を貯めて、一気に植える。なので、(貴興さんの)お父さんには田芋を掘ってもらい、私は毎日苗を切って集め、彼(貴興さん)は植え付けてるという感じで、全員フル稼働で働いています。

貴興さん  それぞれが違うことをしているのに連携感があって、いい感じで回ってるよね。

真海さん  そうだね。でも誰かが体調不良になると終わりなので、意地でも体調崩しちゃ駄目だというプレッシャーがあります(笑)。でも繫忙期には、(貴興さんの)お父さんが手伝いに来てくれたり、お母さんがご飯を作ってくれたり、兄弟が差し入れを持って来てくれたりと、家族全員に支えてもらってますね。

写真:親子(父・息子)連携しながら収穫を進めていく

わたし  ちなみに、これだけ手間をかけて作っている田芋ですが、その年の出来栄えは、いつわかるのでしょうか?

貴興さん  田芋を出荷する際に茹でるのですが、そこで初めて分かります。なので10取れても、良いのが3しかなかったり、もしかしたら0の可能性もある。採った量に対してどれぐらい出荷出来るものがあるのか計算ができないんです。そういう意味では最後までどうなるかわからないという緊張感がいつもありますね。

真海さん  うんうん。

写真:1本の棒を使って、田芋を傷つけないように掘っていく。
写真:1本、1本丁寧に苗を植えていく。

まずは「田芋」を知ってもらい、次は「美味しさ」を味わってもらう

貴興さん  田芋農家をはじめた頃からずっと思っているのは、田芋の認知度をもっとあげたいということです。昔からある食材だけど、意外と県内での消費がどんどん少なくなってきているし、県外に出ると「田芋?なにそれ?」って感じ。なので、いろんな所で色んな方に紹介してもらって、まずは田芋自体の認知度を上げていきたいですね。

真海さん  同じく田芋がもっと人気になればいいなっていうのはずっと思っているのですが、直近でやりたいことと言えば、田芋を知ってもらうためのツアーをやりたいです。(※現在、ちゅらとくサイトで芋炊き体験の予約を開始しております。詳細は下記に)やっぱり実際に田芋がどうやって作られて出荷されているのか見てもらいたいんです。そうして出来立ての田芋を味わってもらって、田芋ってこんなに美味しいんだって実感してもらいたいですね。

写真:芋炊き作業。香りや音、見た目を確かめつつ丁寧に炊いていく。

お客さんの「笑顔」と「美味しい」が力のもと

貴興さん  売り上げも収穫量もなかったころから一貫して決めていたのが、『絶対に美味しいものだけを商品にする』ということ。今は幸いにも少しずつですが、自分たちの芋を「美味しかったです!」と言ってくださる方が増えてきました。そんな方々に今後も喜んでいただけるよう、こだわりをもって作り続けていきます。

真海さん  そうだね。わたしも彼の田芋に魅せられたひとりなので、色んな方と協力しながら、これからも本当の「美味しさ」を伝え続けたいですね。

「美味しい芋は茹でると割れるんです。なので地元ではそんな芋の事を笑う芋と呼んでいます。自分たちの名前は、そこから名付けました!」と笑顔で教えてくださった貴興さん。そんな貴興さんに頷きつつ、「これからも美味しい田芋を作り続けます。」と自信をもって微笑む真海さん。

そんなお二人をみていると、大変なことがあってもそれを糧にし、日々成長していく姿と、本当に美味しいものだけを届けようという強い信念が伝わってきました。

『笑う芋には福来たる』

その名の通り、笑顔溢れるお二人の作る美味しい田芋を、これからも大切に味わっていきたいと思います。

首里石鹸 中里ゆきこ

【笑う芋には福来たる】

■DATA:〒904-1201 沖縄県国頭郡金武町金武2519

■公式サイト:https://lit.link/warauimo

■公式Instagram:https://www.instagram.com/taro_warauimo/

※芋炊き体験は、沖縄県民のおでかけを応援するサイト「ちゅらとく」よりご予約できますが、時期によっては体験が無い場合もございます。予めご了承ください。

~取材後記~

楽しく話しを聞かせていただく中で、「お二人のような若い方が農家を始めることをどう思いますか?」とお聞きすると、「若手の方が来たら、もう全全全力で応援します!(笑)わからないことは全部教えますし、今まで自分たちが経験してきたことも可能な限り教えます!」と仰っていたのがとても印象的でした。自然と会いたくなる、お二人の魅力あふれる姿に、さらに田芋が大好きになりました!ぜひ皆様も、貴興さんと真海さんの美味しい田芋を味わってみてくださいね~♪

首里石鹸 公式YouTubeにて
「晴れ時々、首里」の動画も絶賛配信中です!

YouTubeでは、田芋が出来上がるまでの工程を丁寧にお話ししていただいただけでなく、おなじみ弊社の甲斐ちゃんが畑にもお邪魔させていただきました♪美味しい田芋の素揚げもいただき笑顔弾ける回となっておりますので、ぜひYoutubeショートも合わせてご視聴いただけますと嬉しいです♪