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首里散歩 Vol.296 おいしいごはんの威力

その日は朝からすべてのことに気がのらない日だった。

そんな日に限って、車で2時間かかる場所に行く仕事がある。気がのらない。いや、のせるしかない。仕事なのだ。

2時間の間、わたしなりに気分を上げようと、美しい海や空を見て「きれい!」と呟いてみたり、好きな音楽を聞いたり、トークアプリで意識高い系の話を聞いてみたりした。が、やっぱり気がのらない。

気がのらないのでお昼ごはんもコンビニおにぎりでいいや…と思ったが、制す。

そんなことをしたら、わたしの気分は絶対に向上しない。これから仕事なのだ。最後まで努力を惜しんではいけない。と思ったので慌てて道の駅に立ち寄った。ここを通り過ぎるともうコンビニしかないのだ。そして食べる時間は30分しかない。さあ、どうする。

2択だった。
道の駅に併設されているカフェで食べるか、販売されている弁当やおにぎりを買うか。

職業柄、飲食店への勘が利く方だ。このカフェはたぶんおいしい。だけど残り時間は少ないし、おいしかったところで腹パンになってさらに気分が下がる可能性もある。

さあ、どうする。

カフェで食べる方を選んだ。
時間がかかると言われたらお弁当にしよう。腹パンになりそうだったらちょっと残そう。

さっそく注文場所で「すぐにできたりしますか」と声をかける。「すぐに作ります」と人情味あふれる言葉をいただき、うれしくて迷いが消えた。すぐさま「では、このおすすめをください」と注文。まじでめちゃくちゃ早く作ってくれた。3分くらいだった。

その速さに感激し、急いでもらったからには急いで食べなければ、と思ったが、料理がかもし出す雰囲気が絶対的においしく、倍速で食べるべきではないと直感が言っている。

迷った結果、急いで見えるように一口を大きく頬張りつつ、鼻に抜ける香りを味わうべくゆっくりと噛んで食べた。うわぁ、おいしい。

瑞々しい野菜と、ジューシーなお肉、そこにシークヮーサーを絞ると、さっぱりしつつも華やさがぶわっと広がる。野菜が生きている。この地のめぐみが、わたしの身体にエネルギーを送り込んでくれている。一口食べるたびに、血行がよくなるような活力の湧き上がりを感じた。

なんでこんなにおいしいんだとオーナーさんらしき人をチラ見したい衝動に駆られるが、急がせたのにゆっくり味わっていると知られたくなくて我慢する。

が、最後はこのお店を知りたい衝動に負け、レジ横にある「店名に込めた思い」をチラ見する。

そこには「やんばるの食材を食べて、喜びや幸福、食べることの楽しさを感じていただけるとうれしいです」と書かれていた。やっぱりねと思う。そういう味だったもん。

食後は眠たくなるとか体が重くなるどころか、店を出た後のわたしは爽快だった。サウナでひと汗かいたときのように、何か濁ったものを出せた気がした。

食べることは蓄積ではなく、デトックスにもなるんだなと思い、わたしも読むことでデトックスになるような文章が書きたいなと思った。デトックスした上に、向上心まで芽生えている。おいしいごはんって凄い。

ライター
三好優実