「作ったのか?!ずいぶん器用だなぁ!」
沖縄旅で作った『カンカラ三線』を、今年95歳を迎えた父に見せたときのこと。
多少のことでは驚かない父が、こんなにも嬉しそうに反応してくれた。

『カンカラ』とは、空き缶のこと。
もともとは戦後、物資が乏しいなかで、空き缶や廃材を使って作られたのが、『カンカラ三線』なのだそう。

今回はキットを使ったので、実は誰でも簡単に作れる。
作り方はこうだ。
まず、軸になる棒の木の角をヤスリで丸くして、穴のあいた丸い缶に通す。

そこに、弦になる3本の糸をかける「カラクイ」という部分を取りつける。


最後に弦を引っ張りながら巻いてチューニングすれば、完成。
所要時間は、およそ30分。
そして、作ったあとは演奏体験!
「最初は《チューリップ》を弾いてみましょう」と先生が楽譜を渡してくれた。
見てみると、ドレミではない音階が。
ドは「四」、レは「上」、ミは「中」…。
その読み方を覚えるところからスタート。すでに、わたしの頭の中は怪しい雲行き。
左手は、弦を離した状態が0。そこから内側に向かって1〜5の場所を押さえていく。
右手は「ツメ」と呼ばれるバチで、3本の弦を弾く。

頭で考えて、手に伝えるという脳の作業がどうにもスムーズにいかず、だいぶ手こずった。
音楽として「奏でる」には程遠く、
ひとフレーズ終えるごとに飲み物を口にし、深呼吸という名のため息をつく。
弾く前までは、
「楽譜も読めるし、弦は三本だし、いけるでしょ」
などと思っていた自分を恥じた。
しまいには、チューリップすらまともに弾けないくせに、
「本当はもっと沖縄っぽいのが弾きたかったんですよね〜」
なんて愚痴をこぼす強者ぶりを発揮してしまった。
そんなわがままにも、三線の先生は優しく「何の曲を弾いてみたいですか?」と聞いてくれた。
すかさず「島唄!」と答えると、
「‥難しいところいきますねぇ」と苦笑い。
「やっぱり難しいですか…じゃあ、有名な沖縄っぽい曲で、いちばん簡単なのを弾きたいです!」
そう言って出してもらったのが、《涙そうそう》の楽譜。
「サビの部分だけ、やってみましょうか」
原曲とは思えぬスピードで、頼りなさげなバチの音を響かせながら、なんとか終了。
気合いと根性だけで乗り切った。
・ ・ ・
旅から戻ったあと、父のもとへ遊びに行った際に、練習していた《涙そうそう》のサビを披露してみた。
本州ではなかなかお目にかかれない三線を、珍しそうに触ってみる父。
そして、ギターのように抱えて、弦を上から下に――じゃらじゃらん♪
そうだよね。私もそんな感じで弾くと思っていたよ。
この“ギター持ちでじゃらじゃらん♪”は、沖縄県外あるあるかもしれない。
そしてついに、けっこう練習した《涙そうそう》のサビを聴いてもらう。
歌詞までつけて、思いっきり題名まで歌いながら弾いたにもかかわらず――
「‥‥何の曲だ?」
そんな父の反応に、そっと心を落ち着け、
私は「やっぱり三線は、弾くより聴く専門でいこう」と心に決めた。
(※念のため補足しておくと、普通の人なら1時間ほどの練習でちゃんと弾けるようになるそうです!)
敷居が高そうで、触れる機会なんてないと思っていた三線。
それを自分で作り、帰ってきてからも思い出の続きを楽しめる『カンカラ三線』。

今は部屋の、ちょっと素敵な飾りものになっています。
ライター
まちこ