父方の祖父は、大のアップルパイ好き。
祖父の住む千葉県に帰省する際、母は必ずデパ地下のあるケーキ屋さんに立ち寄った。
「おじいさん、ここのアップルパイが好きなのよ。」
私は子供ながらに、「いつも同じで飽きないの?」と思っていたが、品切れていて食べられなかった時の祖父の顔が本当に気の毒そうだったことを、今でも覚えている。
祖父が亡くなって、早いもので十数年が経った頃、ふと「祖父の命日にアップルパイでも作ってみようかな!」と閃いた。それから年の瀬には、手作りのアップルパイを焼いて、実家に帰っている。
そんな私だが、沖縄でタームパイを食べた時、「パイ好きなおじいさんに、私が大好きな沖縄の味タームパイも食べさせてあげたい。」と思い、昨年初めてタームパイを焼いてみることにした。
タームパイに使用する沖縄の田芋(ターンム)は、水田で栽培される里芋の一種で、きれいな薄紫色したお芋だ。

冬至(トゥンジー)の日は「トゥンジージューシー」として家族の健康を願い、旧盆や正月などでも振る舞われるご馳走で、お祝いの料理には欠かせない食材だそう。

茹でた田芋に水と砂糖を加えて、焦げないように焦げないようにー。
里芋とは異なる、田芋ならではの独特な風味と香り。とろ火でくるくると混ぜつづけ、田芋あんの出来上がり。
沖縄で食べたタームパイは掌サイズだったけど、我が家は祖父を囲んでホールサイズで。ねっとり甘いサクサクしたタームパイをいただきしながら、今年もタイムトラベルをする――。

「みーちゃんは、やっぱり横顔が綺麗だねぇ。」といつも褒めてくれた、祖父のくしゃくしゃな笑顔も。祖父が亡くなった日の父の顔も。
嬉しいことも、悲しいことも、きっと一生忘れないだろうけど――。
年に一度、思い出を刻む日。玄関先で、手土産のアップルパイに大喜びしていた祖父は、私が焼いたタームパイにも、きっと喜んでくれているに違いない。
ライター
YUKAHA