那覇市の古波蔵(こはぐら)。国道から1本入った路地にたたずむアパート。増床をくりかえした様子がうかがえるそのアパートの1階に石鹸工房はある。ここで首里石鹸のボタニカルハンドメイド石鹸は作られる。熱を加えないコールドプロセス製法を用い、時間をかけて冷やし固める「枠練り」で成型します。
湿度や温度といった環境の変化が影響する石鹸の裁断や素材の調合には職人の勘が必要。「製造中の石鹸が固まらないように、工房はエアコンを付けないので夏場は汗が滝のように出て、2~3キロ体重が落ちることもあるんです。石鹸作りって意外とチカラ仕事なんですよ」と代表の平良栄吉さん。手間が掛かり、一度に大量に作ることはできないけれど、それでも手づくりをヤメないのは、素材の色、香りなど、天然素材の良質な美容成分を余すことなく活かすことができるから。
弟の栄彦さんが月桃を研究し、商品開発に取り組んでいたことがきっかけで、栄吉さんはシステムエンジニアとして働いた会社を辞め、一緒に石鹸工房をはじめました。
コールドプロセス製法では、材料に熱を加えず反応熱で石鹸を熟成させます。熱を加えないことで、天然の良質な成分を損なうことなく詰め込むことができるので、とても贅沢な石鹸に仕上がります。
「自然で肌あたりの良い、優しい石鹸を実感してもらいたい」。研究者で、職人気質のおふたり。いまでも自然の力や、沖縄の素材の良さをより豊かに実感できる石鹸が作れるよう、日々改良を続けているそうです。
粘度を確かめ、素材を混ぜ合わせるタイミングはまさに職人の“勘”があってわかるもの。その点、栄吉さん、栄彦さん兄弟は息がぴったり。栄彦さんが粘度を確かめている横で栄吉さんが「あともう30分置くか」「そうだね」と、阿吽の呼吸で作業は進んでいきます。
首里石鹸の「ボタニカルハンドメイド石鹸」の一番の魅力は、鮮やかな「マーブル模様」。合成着色料は使用せず、天然顔料の自然な色だけで沖縄の情景を表現しています。使用する色の数だけ石鹸液を容器に取り分け、香料を加えて混ぜ合わせます。順番に「枠」に流し込んだあと、手でゆっくりとかき混ぜてマーブル模様を作ります。だから、首里石鹸の「ボタニカルハンドメイド石鹸」には、ひとつとして同じ模様は存在しないのです。
ところで、首里石鹸の原点でもある「ボタニカルハンドメイド石鹸」の誕生は、2016年のこと。
出産や子育て、介護などさまざまなライフステージのある女性が、働きやすく、活躍できる環境を作りたい。そして、子育て中のスタッフも販売する商品なら、お子様と一緒に使えるモノが良い。と店主の緒方は願い、優しく保湿に富んだ石鹸を求めました。
洗い上がりのしっとり感、香りの強さ、色の鮮やかさ。そして何より沖縄の植物や果物を存分に活かし、沖縄らしさを追求したい。そのこだわりをカタチにするのは難しく、いくつもの工房や施設に製造を相談するも断られる日々。そんな時に出会ったのが、平良さんの工房でした。平良さん兄弟としてもいままでにない挑戦だったけれど、試行錯誤を繰り返してようやく思い描いた石鹸を完成することができたのです。
流行のものなどを依頼されても植物由来の石鹸以外は作らない。それは「常にお客様のために、自然のチカラを実感できる石鹸を届けたい」という栄吉さんと栄彦さんの強い思い。その思いが、首里石鹸の思いとリンクして、ボタニカルハンドメイド石鹸は誕生したのです。
さて、枠に流し入れた石鹸は、1ヶ月以上かけてゆっくりと熟成&乾燥させます。すると、なめらかで天然由来の清浄力と保湿力を併せ持つ、ツルンとした絹ごし豆腐のような石鹸に仕上がりるのです。
石鹸を裁断する道具や石鹸を固める枠もすべて手づくり。「自分たちで作った道具はメンテナンスやカスタマイズしやすいから、使い勝手が良いんです。ホームセンターで木材を買って作りましたよ」と笑いながら栄吉さんは話してくれました。
枠に型取られた大きな石鹸は、平良さん達が手作りしたその道具で、慎重に、かつ力強く裁断していきます。ひとつの「枠」からできるのは、わずか90個。「素材や環境が変われば、作り方も微妙に変化するので、作っていて飽きるということはないです」と栄彦さん。ひとつひとつの作業を丁寧に、今日も少しずつ作り続けます。
ちいさな工房で製造から梱包まで人の手で丁寧に作り上げられていく「ボタニカルハンドメイド洗顔石鹸」。ひとつずつ表情の違うその石鹸には、沖縄の自然の魅力や人々の繋がり、温かさ、そして作り手の思いが込められているのです。