むかし台風の日、じいちゃんとお留守番をした。
外に出ることはできなかったから、数少ない民間放送のなかから映画のチャンネルを見つけて(途中から見たり、字幕が全部読めるわけもないが)時間を潰した。
外から漏れるすきま風や庭のガジュマルが揺れる音。
凄い雷音を鳴らす時もあったが、怖くはなかった。

お昼ごろになり、お腹がぐるぐる鳴りだすとじいちゃんが台所で鍋をコロコロ回していた。
珍しく台所に立ったじいちゃんが作ってくれたのはヘチマの味噌汁。(沖縄の方言ではナーベーラー)じいちゃんレシピでゴロゴロのヘチマがたくさん入っている。
この頃の私はヘチマ独特のドロっとした繊維質な食感がいつまで噛んだら良いのかわからず喉に詰めそうであまり好きではなかった。
でもじいちゃんとの留守番ではいつもこれがでてくるから段々と食べれるようになった。

だから夏になると、台風が近づくニュースを見るたびに、この味噌汁のことを思い出す。
甘い味噌汁のなかにしょっぱいポークが入っていて、美味しくていつも最初に食べてしまうから、ヘチマがどんどん残ってしまい、飲み込むタイミングを失ったヘチマを一生かけて噛んでいる気がした。
食べ終わるころには足が痺れていたので、テレビの部屋のソファで少し休み、昼からは残っていた夏休みの宿題をかたづけた。
そうして夕方には雨風も落ち着き、外に少し出てみると台風が過ぎ去った雨と土と緑の匂いがする。
この”台風の香り”は不思議と私をワクワクさせる。
庭のガジュマルや芝生の緑は洗濯終わりみたいに生き生きしてるようにも見えた。

首里石鹸 池田まお