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首里散歩 Vol.191 歩み寄る岩 2023年4月4日

沖縄に来てから、新しい自分に気づくことが度々ある。
子育てで不意に空いた時間に、目の前に現れたものの中から、もう一度見たい、もっと知りたいと思う素材や色、触感、匂いが、どんどん興味を掻き立ててくる。

息子が小学校中学年くらいになった時だったか。
家で少しの間は留守番もできるようになって、親子喧嘩の末、家出してたどり着いたのがやんばるだった。目指したわけではなく、一般道を気が済むまで走ったら、日の暮れたやんばるに着いていた。

他に車もほとんどいない、漆黒の海と景色。
気配で感じるやんばるの一人の時間は、静かな力をくれた気がした。

先日、息子の化石標本作りのワークショップの送迎で、国頭村に出向いた。
あの日、家出してたどり着いた辺りだな…と、よく知ったつもりで出向いたが、久しぶりの昼間のやんばるの水平線はとても穏やかで、何度も車を降りて見入ってしまった。

3時間ほどの、一人の時間のプレゼント。
私の心に留まったのは、沿道にそびえ立った岩だった!しかもいくつもあった!

そびえ立つ岩の手前や周りに、島に向かって、何かが歩み寄ってきたような岩が、自然の躍動感を駆り立てる。

たまにしか車も通らない。いつもは家族に向けて伝えている感動を、今日は自分に言い聞かせるように言葉にしている。そして、止められることもなく、気を遣うこともなく、好きなだけ、岩を愛でている。
手に入れたいわけではなく、ただ、目の前の形で存在している今、ここにいることを楽しみたい。
今頃、専門家の先生に詳しい説明を受けている息子を、心底羨ましく感じながら、不意に与えられた時間を、存分に好きなことに使った。

迎えの道の駅に戻る前に撮った写真が、キラキラと輝いていた。
不思議と、またすぐにここに来れる気がした。

ライター
首里石鹸 白鳥恵子