ついに私は「移住者」になった、と思う出来事があった。
沖縄で暮らしはじめて10年ちかくなる。
なのにいまだに自分のことを「移住者」と自称できないのは、こんなに長く住むと思っていなかったからだ。そしてこれからもずっと住むとは言い切れないところがあるからだ。ずっと住めればいいな、とは思うけれど。
移住者になったと実感したのは、ほんの些細なことだった。 仕事であまりにも沖縄そばの話を聞いたからか、その日、ひとりランチの行き先に沖縄そば屋をチョイスした。無性に沖縄そばが食べたくなったのだ。
無性に食べたかった沖縄そばを食べた瞬間、とんでもない幸福感に包まれた。ひとり脳内で「これこれ」と反芻した。紅しょうがもたっぷり乗せた。食べ終わった後ふと「沖縄そばが無性に食べたくなったの、はじめてだ」と気づいた。そして「おお、なんだか移住者っぽいぞ」と思ったのだった。
帰宅後インスタグラムを開き、沖縄そばの写真とともに「沖縄そばが無性に食べたくなったので、私はもう立派な移住者ではないでしょうか」とコメントを添えて投稿した。すると思いのほかたくさんのメッセージが届いた。
「うん、合格w」
「自分、移住歴10年だけどまだない」
「それはもはやウチナーンチュだな」
「移住者じゃないけど無性に食べたくなりますw」
それぞれがそれぞれの目線でメッセージをくれることが面白くて、沖縄そばを食べただけでこれだけバラエティゆたかなメッセージがもらえることこそが移住者の証なのでは、と思いうれしくなった。
無事、移住者認定(?)を受けた後日、車検の兼ね合いで台車を借りることになった。
おそるおそるアクセルとブレーキの強度やミラーの角度を試し、感覚を身体に馴染ませながら車を走らせる。視界に入る海や空をチラ見する。ここから見る景色、何回見ても最高だよなぁ。久しぶりに乗り慣れない車を運転すると、なんだか観光客のような気分になった。
ひとり観光客気分を満喫しながら、やっぱり私は移住者とは呼べないかもしれないなと思う。10年住んでもすぐに観光客に戻れてしまうのだ。
だけど移住者と観光客を行き来するような、そういう暮らしはとても贅沢ではないか。そしてそれは、私の暮らし方としてとてもしっくりきているような気がした。
私は沖縄という地に今この瞬間、いる。暮らしている。移住者でも観光客でもなく、移住者でも観光客でもある。ただそれだけのことなのだ。
ライター
三好優実