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首里散歩 Vol.212 最後の焼き菓子

お散歩コラムを書くというのに、ここ3週間ほとんど外に出ていない。
息子が感染症にかかり、入院したからだ。付き添い入院という名の病児保育ですっかり私も感染してしまい、親子ともどもバタンキューだったのでした。

なんとか回復に向かいつつあるなか、私にはひとつとても気がかりなことがあった。それは、長年大好きだった焼き菓子のお店が閉店してしまうこと。そしてこのままでは、最後にそのお店のおやつを味わうことができないことだ。

写真:大好きな焼き菓子店のおやつ

車で30分くらいの場所にあり、行こう行こうと思ってはつい先延ばしにしていた。
そんなお店が、閉店してしまう。

どうしても食べたい。
あの店の、マフィンが、クッキーが、ショコラが、スコーンが、どうしても…!

とはいえ咳鼻水くしゃみコンボ女が1歳児を抱き抱え、大盛況であろうお店に並ぶのはさすがに迷惑すぎる。
大好きなお店のラストにそれはできない。してはいけない。ああ、諦めるしかないのか。諦めるしか…!


鬱々としていると、友だちからLINEが来た。

「体調大丈夫?なんか欲しいものあったら買ってくよー」

欲しいもの。

ある。

めちゃくちゃ欲しいものが、ある。

わかっている。
こういうとき甘えていいのは水とかポカリとか、いってもゼリーとか、そういうやつだ。

行列に並ぶ可能性が高いお店のスイーツを買ってきて欲しいなんて、それはさすがに。

分かってはいるのに、あわよくば精神が勝った。そして私は「実は欲しいものがあって…」と切り出した。

切り出した直後、いやぁさすがにやっぱりちょっと…とか思っていると、「土曜だったら行けるよー」と返ってきた。

本当にいいの!!!!!

舞い上がった。ああ、神さま。いや違う。友だちさま。私はあなたのおかげで後悔せずに済みます。

そうして友だちはリクエスト通りおやつを8個買ってきてくれて、その2日後、お店は本当に閉店してしまった。

行こう行こうと思っていたら、お店はなくなってしまう。やろうやろうと思っていたら、時間はあっという間に過ぎてしまう。そんなことをここ数年で痛感していたはずなのに、やっぱり私はまだまだ人生の優先順位を見誤っていると情けない気もちになる。

だけど私は友だちのおかげで、お店が作った最後の作品を手に入れることができた。

その幸せを噛み締めながら、やっぱおいしいな、なくなるんだな、としみじみ思う。

ひとつだけ食べ、のこりの7個をすべて冷凍庫に詰め込んだ。

これからひとつひとつ解凍して食べるたびに、大好きなお店と友だちの優しさを思い出そう。そして幸せな気もちに混じる少しのさみしさをバネに、1日をがんばろう。

ライター
三好優実