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晴れ時々、首里 Vol.23 命の薬(ぬちぐすい)を感じるひと時

沖縄には「ぬちぐすい」という言葉があります。

直訳すると「ぬち」は「命」、「ぐすい」は「薬」で「命の薬」という意味になり、心や身体が喜ぶものや、癒されるような出来事のことを「ぬちぐすい」と言います。

人によって何を“癒し”と感じるかは違いますが、感情を揺り動かし、心も身体も“ここに引き寄せられる気がする”のは、まさに命の薬(ぬちぐすい)だと言えるのではないでしょうか。

今回の『晴れ時々、首里』では、そんなわたしにとっての命の薬(ぬちぐすい)を感じる地、沖縄県南城市にある宿屋、『姉と弟の家』を取材させて頂きました。

宿を始めるきっかけは友人の一言。

写真:弟の家。

南城市玉城村にある宿屋『姉と弟の家』。
1棟貸しの家が2棟並び、それぞれ『姉の家』『弟の家』と名がついている。

元々はオーナーの稲福 剛治(いなふく こうじ)※1さんのご自宅だったが、剛治さんの奥様の稲福 麻里(いなふく まり)※2さんのご友人がニューヨークから遊びに来た際に、「ここの家を貸し出したら、すごい喜ぶと思うよ。」と言われた一言をきっかけに、「民泊」をはじめた。

現在は完全に宿屋として、公式ホームページと、Airbnbで予約を受け付けている。

※1 以下「剛治さん」と称する。
※2 以下「麻里さん」と称する。

剛治さん ここは元々僕のおじいちゃんの畑があった場所なんです。その土地を姉と僕が譲り受けて、それぞれ住みたい家を建てたのがはじまりですね。

家が建ってわりとすぐに姉が県外に嫁ぐことになり、隣の家に空き部屋ができたことから、何か出来ないかな?と思っているタイミングで、麻里の友人がニューヨークから遊びに来たんです。

その際、空き部屋を貸したら、「ここ貸し出したら、きっとすごい喜ぶと思うよ。」と言われ、その時にAirbnb(エアビーアンドビー。通称エアビーと呼ばれ、世界191カ国以上で利用されている民泊サービスのこと)という存在も教えてくれました。

その頃はまだ日本では馴染みがなかったのですが、海外ではこんな感じで自分の家を貸したりするんだ~。という驚きから、空いてる部屋もあるし、じゃあ物は試しでやってみようとはじめたのがキッカケですね。

麻里さん うんうん。

宿名の由来はおもいがけないところに。

── 『姉と弟の家』って名前が凄くインパクトがありますよね。その名前はどうやって決めたのでしょうか?

剛治さん ここを立てた建築家の方が、ご自身のウェブサイトで「姉と弟の家」と名前を付けて紹介しているのを見て、そのままその名前を使わせてもらいました。変な名前ですけど、他にいい名前が何も思い浮かばなかったので。(笑)

── お宿のコンセプトを教えてください。

剛治さん 「旅先で、暮らすように泊まる。」と、宿屋としてはじめた頃からずっと言っていましたが、今はそう言っている宿屋が増えちゃって…。
色んな宿が言い出してからは、ちょっと言うのが恥ずかしくなってきちゃったよね?(笑)

麻里さん そうだね。(笑)

剛治さん だけど、ここの宿のコンセプトは?と聞かれると、やっぱり“暮らすように泊まる。”が一番しっくりくる気がします。

── この宿のおすすめの過ごし方を教えてください。

剛治さん そもそも自宅だったので、キッチンがありますし、食器や調理器具もある程度は揃っているので、地元の食材を買ってきて料理して、食べてという、本当に自宅でゆっくりくつろぐみたいな感覚で使っていただくのがおすすめですね。

忙しく観光地を巡るとかっていうよりは、ここで好きなことをしたり、家族や友人との会話を楽しみながらのんびり過ごす。そんな、非日常だけど日常っぽく暮らす。のが、この宿の醍醐味だと思います。

── 雨の日・晴れの日で、おすすめの過ごし方は?

剛治さん 雨の日は、周辺のいいお店を全てお伝えします。特に宿の目の前にある玉城食堂は、ご飯も食べれるし、食器も買えるし、そういう近場でのんびり過ごすのがおすすめかな。

剛治さん うちの宿を選んでくれる方とは、なんとなく好きなものや食べ物も近しい方が多いので、自分のおすすめのお店をお伝えすることが多いですね。

晴れの日は、徒歩圏内で行けるビーチもあるので、海に行ってのんびり過ごすのがおすすめかな。

あと、自転車の貸し出しもしているので、自転車で奥武島(おうじま。南城市にある小さな島で、沖縄天ぷらが有名な島。)まで行って、天ぷらを食べて帰ってくるのもいいですよ。

もちろん、人によって色んな過ごし方があると思うので、好きに過ごしてもらうのが一番ですね。

“行きたい場所”から宿を探すのではなく、“この宿に泊まりたい”からはじまる出会い。

── こちらに宿泊される皆さんは、どのようにして、この宿を見つけるのでしょうか?

剛治さん 外国から来られる方は、皆さんAirbnbが多いですね。ただ、韓国から来られる方々は、宿泊したらそれをご自身のブログで発信してくれる方が多いので、それを見て来てくれる方も多いですね。

日本人の方は、インスタグラムで知ってくださった方がほとんどです。最近は、行きたい場所を決めて近くのホテルや宿に泊まる。ではなく、
「この宿ってどこにあるんだろう?」
「南城市って聞いたことないけど行ってみようか。」
っていう感じで、宿を決めてから、どう過ごすかを決める方も増えてきました。

“来てみたら、意外と見所も色々あるんだね。”
“凄くいいところだったし、次もまた来たいよね♪”

それって、今まで知らなかった観光地以外の地域を知れるチャンスだと思いますし、それこそ知らない土地に泊まる一番の魅力なんじゃないかなと思います。

麻里さん うん。うん。

── リピーターさんもいらっしゃいますか?

剛治さん はい。結構いらっしゃいます。
今は日本人の方が多いですが、以前、ドイツ在住の方で3回ほど泊まりにいらっしゃった方もいました。さすがにドイツからはちょっとびっくりしましたね。(笑)

1度目の滞在より、2回・3回って回数を重ねることで、調味料の有無や、美味しいコーヒー屋さんの場所、買い物する場所や、どんなものが売っているかなど、勝手がわかって、どんどんこの場所に馴染んでくるので、それもまた楽しいんだと思います。

要するに、ご自身のセカンドハウス的な感じで使ってもらえるといいなって思ってます。

── このお仕事をしていて、印象に残ったことや、嬉しかった出来事を教えてください。

剛治さん 「ここのファンです。」って言ってくれる人が、ご自身のおすすめの宿として紹介してくれて、そういう方を通じて、また好きになった方が来てくれる。そういう好きで繋がる流れがだんだん出来てきたことが嬉しいです。

麻里さん わたしは宿泊してくれたお客様が帰り際に、「よかったよ。」って言ってもらえることが1番嬉しいです。

剛治さん それ、嬉しいよね。
あと、外国の方で、たまに車を借りずにいらっしゃる方がいるんです。
そうすると、すごく不便になるじゃないですか?
不便であればあるほど、人の助けって必要になるので、自然と僕らとやり取りする機会も増えるんです。
それに僕らも異国の地で、車も無いとなると、手伝ってあげなきゃ!という気持ちがうまれるので、例えば、タクシーの手配をしてあげたり、連れて行けるところは一緒に連れていってあげたり、歩いていける距離のおすすめを教えてあげたりなど、困った所をサポートしてあげると、いつも以上に感謝されますし、そういう人ほど仲良くなるっていうのがありますね。

麻里さん 友達も増えるよね。
それに、そうやってサポートした方々には、いつも以上に感謝されるので、すごくやりがいも感じたりしますね。

剛治さん そうそう。過去にはイタリアから来た方で、持ってきたカードが一枚も使えず、現金も引き出せない人がいて…。(笑)

麻里さん お金を貸してあげたよね?それと、ご飯を奢ってあげたんだっけ?

剛治さん うん。うん。

麻里さん その時もすごく感謝されて、
「イタリアに来た時は、絶対に私に連絡して!!!」って言ってくれたよね。(笑)
旅先で、地域の人と触れ合うことって中々無いじゃないですか?特に海外であればなおさら。
だからこそ、地元の方との交流が1番心に残ったりするんです。それに、お客様が喜んでくれると、わたしたちも嬉しいんです。

剛治さん そういうエピソードって、結構一生語れるネタになったりするじゃないですか?(笑)
そういう出会いがあると面白いよね?

麻里さん 面白いね。

剛治さん 以前、アメリカから来たリピーターの方がいて、「僕のこと覚えてる?」って言われたのですが、僕は忘れてて…(笑)けれど、向こうはすごい細かいことまで覚えてくれていたんです。

麻里さん そうだったね。

剛治さん 僕も話しながら、「あ~…そういえばそんな事もあったな…」って思い出してきて、また一緒にご飯を食べたりしました。

麻里さん お客様の泊まってる宿(姉と弟の家)に、自分たちが食材持ち込んで、一緒に作って食べるとかもしたね。

剛治さん すごく極まれにあったよね。
それこそ、この間の台風(台風12号)で帰れなくなったお客様と、停電・断水に伴い、一緒に那覇のホテルに避難したんですが、一緒に困難を乗り越えた連帯感みたいなもので、すごく仲良くなったんです。

麻里さん 仲良くなったね (笑)

剛治さん そういう思わぬハプニングや、面白い出会いがある事も、宿屋をしていて良かったことですかね。(笑)

困難に直面した時こそ、いい局面を探す事が大事。

── このお仕事で1番大変だったことを教えてください。

剛治さん やはりコロナですかね…コロナ禍でだいぶ影響受けたので。まさか、自分が生きてるうちにこんなことが起きるなんて思いもしませんでした。

あとは、台風も大変ですね。
ここ(宿)は、建物と植物との距離をなるべく近くしているんです。その為、どうしても台風などの自然の影響を受けやすい。もちろん、自然の中にあるってことは、人間にとって都合の良くない自然現象も受け入れないといけない事もあります。

虫やヤモリが出る事もありますし、“いつでも完璧”とはいかない。けれど、僕はこっちの方が自然のあるがままの姿だと思いますし、それがこの宿のいい所だと思っています。

麻里さん うん。うん。

剛治さん あと、大変なことがあるたびに、どうにかいいものを探すっていう事を癖づけるようにしています。確かに、コロナも台風も大変でしたが、その間にお客様がもっと使いやすいようにDIYしたり、備えたりと、振り返ると大変だったけれど、それもそれでよかったな。って思えるように動いたり、考えたりしていますね。

麻里さん そうだね。

違っているからこそ心地よい。お二人のオフの日の過ごし方とは。

── お2人のオフの日の過ごし方や、プライベートで挑戦してみたい事を教えてください。

剛治さん 麻里は、バレエやピラティス、スケートもしていて、朝はヨガをしているよね。

麻里さん うん。そうだね。

剛治さん あとは、ハッピーモア市場(宜野湾市)に買い物に行ったりしています。

麻里さん 週に一度くらいだけどね。わたしは健康オタクなので、健康のための体作りに興味があります。

剛治さん そうだね。僕の挑戦してみたいことは、いつか自分で家を作ってみたいですね。
今はDIY程度ですが、いつか古民家を買って、そこを自分の思うようにリノベーションしてみたいと、ずっと思っています。

── お2人の小さい頃の夢や、好きだったことを教えてください。

剛治さん 僕は小さい頃から夢って夢はなかったかも。本当に今振り返っても思い当たらなくて、夢を語れる子が羨ましかったです。

でも大人になってからは、実は僕みたいな人の方が大多数なんじゃないかな?と、思ったりします。

もちろん夢はあるに越したことはないですが、夢がなくてもある程度楽しく過ごしていく方法はあると思う。なので、僕の子供の頃のように、夢がない事に悩んでいる人がいたら、「夢がなくても大丈夫だよ。」って言ってあげたいです。

麻里さん わたしも強烈にこれが夢って思ったことはないかも。部活を一生懸命にやっていた時もプロになりたいって思った事はないですし、そもそも職業的なことでやりたいことってなかったかも。

ただ、20代の頃は東京でカメラマンになるのが夢というか、なるものだと思っていたんですが、どういうわけか、今は沖縄にいますし(笑)、生きてると色んな転機があるので、その時々で好きなことをやってる感じですね。

剛治さん 夢って気づかないうちに全部叶ってると聞いたことがあるので、今はそういうことにしています。後から振り返ると、「あ、あれも叶っていた。」みたいなことがあるので。

ただ、そこまでのプロセスが、自分の想像しているものとは違うので、気づかないだけで、意外と気づいたら叶ってるって事があるんじゃないかなと、今は思っています。

好きを突き詰めた結果、周りも幸せになってるといい。

── 最後に今後の夢と地域への思いを教えてください。

剛治さん お宿業を通して、色んな方との出会いがある事も、もちろん好きですが、空間を作ることも楽しいなって思うんです。

なので、僕達がいいな。好きだな。と思えるものを、この辺りを中心に作っていきたいと、思っています。

それは、自分達が過ごしていて気持ちいいなと思えるものを作りたいし、提供したい気持ちが根っこにあるから。

僕たちが作るものに、同じように「好き。」って思っていただける人が来ていただいて、喜んでいただけたら嬉しいなと、思っています。

麻里さん そうだね。

剛治さん あと、初めから“地域活性のためにこれをやろう!”っていう気持ちは、正直そんなに強くないんです。

けれど、自分が好きなことを突き詰めた結果、周りも幸せになってるといいな。とは思うので、直接的ではないかもしれないけど、巡り巡って僕たちの周りや地域の為になっていけばいいな。と、思っています。

取材帰り、始終穏やかに話してくださった、剛治さんと麻里さんの持つ、自然体な空気感と、飾らない言葉の数々を、気づけば何度も思い出している。そして、話を聞かせていただいたあの空間を思い出すたび、心も身体も自然と深く呼吸をしていることに気が付く。

命の薬(ぬちぐすい)。
心を揺り動かし、身体も自然と引き寄せられる出来事。

それは、案外傍に、そして意外とシンプルな事なのかもしれない。

あなたにとっての命の薬(ぬちぐすい)はなんですか?
それを見つける・感じるための旅にでるのもいいかもしれませんよ。

首里石鹸 中里ゆきこ

【姉と弟の家】
DATA:〒901-0604 沖縄県南城市玉城字玉城90-1
チェックイン時間:15:00~
チェックアウト時間:11:00
公式ホームページ
https://inafukuke.com/jp/about-us/
公式インスタグラム
https://www.instagram.com/anetootoutonoie/
駐車場:有り
TEL:070-4067-9843
※こちらは宿泊施設となっております。ご宿泊のお客様以外の見学・敷地内への無断侵入等はご遠慮ください。

~取材後記~

お忙しい中、快く取材を受けてくださった剛治さん・麻里さん。お二人の持つ魅力に引き込まれ、とても楽しくお話しさせて頂きました。

弊社のYouTubeチャンネルでは、お馴染みの甲斐ちゃんが、お二人のお宿『姉と弟の家』をご紹介させていただきましたので、ぜひYoutubeショートも合わせてご視聴いただけますと嬉しいです♪