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晴れ時々、首里 Vol.19 一口食べて感じるのは、幼い頃の「幸せの味」。

初めて食べた時に「美味しい。」と感じたものは、大人になってからもずっと刻まれている気がする。それはただ単に味が美味しいとかではなくて、その時の「笑いあった時間」や「幸せな気持ち」がまるでトッピングのようにくっついていて、なんど思い出してもふふっと笑みがこぼれる「幸せの味」になっているからなのだろう。

大人になるにつれて、「味」も「思い出」も色んな経験をしていくが、それは色あせることはない。むしろ自分の経験値が上がるたびに、あの時は気づけなかった新たな発見や気持ちに気づけたりもする。

そうして思うのは、「美味しい。」をうみだすということは、「笑顔」をうみだすことと等しいということ。

今回の「晴れ時々、首里」では、そんな「美味しい。」を作り続けるパティシエの 知名 祐弥さん に取材をさせて頂いた。

※撮影時のみマスクを外して頂いております。

きっかけは子どもの頃の家庭の味。お母さんが焼くクッキーだった。

八重瀬町にある「ジェラートアカヒロ」でチーフパティシエとして働く知名 祐弥さん。
大学生の頃までサッカー一筋だった祐弥さんが”お菓子作り“に興味を持つようになったのは将来の進路を考え出したときだった。ひとつ上の先輩がプロサッカー選手になったのを間近で見たことから、自分も将来はなにかの「プロ」になりたいと考えるようになり、その時ふと脳裏に浮かんできたのは、幼い頃にお母さんと一緒にクッキーやケーキを作った時の思い出だった。

祐弥さん 僕が小さい頃にお母さんが家でケーキやクッキーをよく焼いていて、たまにちょっと手伝ったりしていました。それが楽しかったな…と浮かんできて、僕自身、物作りが好きっていうのもあり『じゃあ、そっちの道に進むか』と決心しました。

── そこからどうやってパティシエになったんでしょうか?

弥さん 初めはどうしたらパティシエになれるのか、全然わからなかったので、まずは専門学校を探そうと思って東京に行ったんです。その時に、僕の大学の先輩が宮城(現在のオーナーシェフ)を紹介してくれて、その頃宮城が修行していた横浜のお店に1度話をしてみたら?ってことで繋げてくれたんです。

さっそく修行先のオーナーに「パティシエになりたい」って話をしたら、オーナーが思いのほか大歓迎してくれて。それからトントン拍子に話が進んだ感じです。

── 今までとは全く違う世界に飛び込んだわけじゃないですか?入ってからこそ感じたギャップはありましたか?

弥さん 朝が早いのと、労働時間が長いのが過酷でしたね。修行先(横浜のケーキハウスノリコ)には、厳しく指導してもらいました。正直、大変でしたが「逃げたくない」って気持ちが強くて、無我夢中で修行に打ち込んでましたね。

── 修行時代の1日のスケジュールを教えてください。

弥さん いつも朝5時半からスタートして、お店が終わるのがだいたい夜の9時。そこから自主練習を10時か11時ぐらいまでやって自宅へ帰るって感じでした。
もちろん自主練習しないで帰って寝てもいいのですが、それだと仕事も覚えられないし、周りとの差がどんどん開いていきますね。

── 最初はどういうお仕事からスタートするのでしょうか?

弥さん まずはケーキの販売からスタートでした。まずケーキを取る、触るところから始まって、そのあとはクッキーの包送をしたりしていました。もちろんお店によって仕事の内容も違うのですが、僕の修行先は接客からでしたね。ケーキの説明が出来るようになるところからスタートして、3ヶ月ぐらいでようやく中(厨房)に入ることができました。大きなケーキ屋さんだったので、中に入ってからも部門が分かれていて(スポンジ生地部門、クッキーや焼き菓子部門 等々…)、なので各部門を1年ごとに全て回って…全部門を回るのに大体6年くらいはかかりましたね。

さん 修行時代には、毎年あるコンテスト(コンテスト出場者は、立候補の希望者で構成される)にも出ていたので、コンテスト期間はほとんど眠れないです。たただでさえ眠れないのに、その期間は更に仕事が終わったらコンテストの練習があるので、本当に体力勝負というか、好きじゃないとやれないですね。

── くじけそうな時、どうやって気持ちを戻していましたか?

弥さん コンテストもそうですけど、パティシエとして働いていている人は、みんな仕事が終わったら同じように練習したりしていて…。ある意味自分の努力したことが結果に出やすい。そう考えると、同じように頑張っている人の存在があったからこそ頑張れましたね。
それに、お店の中だけで張り合っていると、『井の中の蛙』みたいな感じなんです。気持ちがそこの中だけでしか考えられなくなるというか…。コンテストは、お店以外の人たちを見れる・知れるチャンスでした。「レベル違うな。」とか、「上には上がいるんだな…」って、それを知れるだけでもだいぶ成長しますね。

「一緒にやらないか?」の一言に気持ちが動いた。

弥さん パティシエになりたくて東京へでて、なかなか沖縄に帰るタイミングが見つからなくて、もうずっとここ(東京)にいてもいいかなって思っていたんです。そんな時に、宮城が沖縄でお店出すから「一緒にやらないか?」って声をかけられて。これ逃したらもう沖縄帰ってこれないのかもと思って、一緒にやることにしました。

── はじめはケーキ屋さんからスタートしたんですよね?

弥さん はい。最初は宮城と、宮城の奥さんの3人が作り手として、南風原町の「パティスリーAkaHiro」からスタートしました。※販売スタッフさんは別でおります。
(宮城の)奥さんも元々同じ店で職人として働いていたので、初めは3人でお店をオープンして、2・3ヶ月ぐらい経った時に、経験者の方が1人入ってきてくれて、そこからは4人で全てのケーキを作っていました。

── なぜジェラート屋さんをやろうとなったんでしょうか?

弥さん 宮城が横浜のお店を辞めた後に、1年間フランスに修行に行ったのですが、現地のお店でジェラートを食べたら、とっても美味しかったらしく、『沖縄でお店を出す時は一緒にジェラートもやりたい』ってずっと言っていました。 元々は、津嘉山のケーキ屋でジェラートも販売しようと思っていたのですが、お店の規模が小さすぎて断念しました。何年か我慢が続き、ようやく2020年9月にここ八重瀬町にお店をオープンすることが出来たんです。

「シンプル」だからこそ「素材にこだわる」。それはオープン当時から変わらない。

── オープン当時からあるメニューはありますか?

弥さん 「ミルク」と「ピスタチオ」は最初からあります。
ジェラートを作る際の材料は、牛乳・砂糖・生クリームとシンプルにできていて、使う牛乳や砂糖の質や量によって味が全く変わってきます。なので、材料に妥協は出来ない。
それに、ジェラートの味の決め手はミルクなんです。シンプルだからこそ、ミルクを作るのが1番苦労します。※牛乳は県産の「EM玉城牧場牛乳」を使用している。

── メニューを開発する時のこだわりや決めていることはありますか?

弥さん 素材探しが1番重要ですね。いい材料を見つけたら試してみて、美味しかったら社長に味見してもらって、オッケーをもらったら店頭に並ぶって感じです。
やっぱり自分で実際に見たものが美味しく作れるんです。中には自分たちで素材を作っているものもあります。なんでも業者さんから仕入れていると、いつどんなふうに作ったものかも分からないですし、在庫の問題で保管期間が長いと味も抜けていたりするので、自分で作れるものは作ろうと思っています。

── どういうものをお店で作っているのでしょうか?

弥さん 抹茶にお餅を入れているのですが、そのお餅も最初は業者さんから買っていたのを、最近は自分で作り始めたり、ミルクティーは、茶葉だけ仕入れてお店で煮だしています。クリームブリュレの飴もお店で作って、注文が入ってからジェラートに入れていますし、モヒートのミントは、自家栽培で作っています。
あとは、チョコレートや生クリーム、バターもちゃんとフレッシュなしっかりした材料を使っています。安い物や加工品を使うと、どんどん味が薄くなって、よくわからない味になっていってしまうんです。だから、バニラビーンズも本物を使っていますね。

── 「手作り」や「素材」にここまでこだわるのはなぜでしょうか?

弥さん 修行先のお店の影響ですかね。アーモンドの粉末も普通だったら業者さんから買うのですが、そこはアーモンドを買ってきて、石臼のような機械で引いて粉末にしたのを使っていました。そうすると香りが全然違うんですよ。

ずっとそういう環境で育ってきてるので、それが当たり前になっているんだと思います。

お客さんとの距離が近いからこそ感じられる事。

弥さん ケーキ屋にいる時は、厨房内でずっと作るだけなので、自分が作ったケーキをお客さんがどんな表情で食べているのかも見えないし、お客さんとの関わりもあまりないんです。でも、ここはお客さんが食べている姿を身近で見れるので、お客さんの反応もすぐわかる。ケーキ屋では、あまり味わったことない感覚ですね。

── お客さんに言われて嬉しかった事や、驚いたことはありますか?

弥さん 新商品を出したら、すぐ食べに来てくれる方がいるんです。モヒートを出した時もすぐ来てくれて、「箱で欲しい。」って言ってくださったり、「こんな味があったらいいな。」と、言われた味を1度作ってみて、「作ってみたのですが、どうでしょうか?」って食べてもらうと、嬉しそうに頬張る笑顔(or姿)が嬉しかったですね。

ちなみに、その時作った商品が「チャイティー」。
万人受けする優しい味にしようか、スパイス好きな人のための味にしようか、結構迷ってたんですが、「やるなら、がっつりスパイスが効いたものを食べてみたい」という言葉に動かされて、ちょっとピリってする、結構本格的にスパイスが効いたジェラートができました。

スパイス好きな方のために作ったから、あんま売れないかな~と思っていたのですが、意外と好きな方が多くて驚きましたね。

いつ誰がきても自信をもって出せるように。

── 修行先のお店の方が来られたことはありますか?

弥さん 津嘉山のケーキ屋さんがオープンする時に来てくれました。それも、お店のスタッフ引き連れて、指揮もとってくれました。結構大変だったので、かなり助かりました。
でも、ここ(ジェラート屋さん)にはまだ来てないですね。

── いつか食べてもらいたいですか?

弥さん ちょっと怖いかな(笑)。
あの時(修行時代)、散々怒られてきた思い出が浮かびますね。加工品を使っていると「こんな物、使うな!」とか言われますね、多分。なので、いつ来られても良いように毎日ちゃんとした素材で真剣にジェラートを作っていますね。

日々、自分とそして素材達と向き合いながら、「美味しい」を作り出すことへの情熱を持ち続けている祐弥さん。
次なる夢は、ジェラートを「お店に食べに来てもらう」のではなく、「キッチンカーで会いに行く」ことだと言う。それを聞いて、いつか祐弥さんの温かい笑顔と超絶美味しいジェラートを沖縄の青い空と共に味わうことが出来ることが、とてもとても楽しみになった。

首里石鹸 中里ゆきこ

【ジェラートアカヒロ】
DATA:〒901-0405 沖縄県島尻郡八重瀬町伊覇55-4
営業時間:11:00~18:00
定休日:火曜日・水曜日
※ご来店前にインスタグラムでのご確認をよろしくお願いいたします。
公式インスタグラム:https://www.instagram.com/gelato.akahiro/
駐車場:有り
TEL:098-996-2265

≪ 編集後記≫
仕事がお休みの日でも、ついついジェラートにできそうな素材を探してしまうという祐弥さん。なにげなく、「普段から甘いものはよく食べるんですか?」と、お聞きすると、実は甘いものはあまり得意ではないとのこと(笑)ですが、お店のオープンが決まってからは色々なアイスやジェラートを全種類食べ比べてみたりと、どこまでも「美味しい」を作り出すことにひたむきな姿勢がうかがえました。そんな祐弥さんが選ぶおすすめは…

1位:生チョコ(生チョコもお店で手作りしたものをジェラートに。)
2位:モヒート(自家栽培なので、あればラッキーなレアメニュー。アルコールは不使用。)
3位:紅芋(東風平小学校とコラボした商品。お芋も八重瀬町の農家さんの紅芋を使用。)
※季節や素材によっては、終了している場合もございます。何卒ご了承くださいませ。

ぜひこの記事を読んでくれた皆さんにも、祐弥さんが作り出す「ジェラート」を味わいに 足を運んでみてほしい。



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