沖縄県南城市。奥武橋を渡ると、美味しい天ぷら屋さんが有名な、 “ 奥武島(おうじま) ” がある。
今朝は大雨が降っていたにも関わらず、目的地に到着すると晴天に。
この景色を毎日眺めながら過ごすのは、普段の生活と比べると非日常に思え、こころが豊かになりそうだ。
同じ沖縄で育ったわたしでも、うらやましいと思えるこの場所で、″ガラス“の魅力にハマり、そしてその魅力を自身の手で発信するガラス作家がいる。
ガラス工房『glass studio 亜sian.h』を経営する、津波古亜希さん。
沖縄で作るガラスというと、琉球ガラスが一番に思い浮かぶが、津波古さんの作るモノは、琉球ガラスとは別物だ。
津波古さんの工房では、 パート・ド・ヴェールという置物や再生ガラスのお皿などを制作している。
パート・ド・ヴェールとは、ガラスの粉末を耐熱石膏などに詰めて溶融し成型する技法で、フランス語で「ガラスの練り粉」のこと。
今回取材をさせていただく中でわたしが一番気になったのは、津波古さんがガラスに興味を持ったきっかけだ。
それは幼少期にさかのぼる。
「奥武島で育ったので、幼いころから身近に海や川があり、流れをじっと見つめ、透明のものが立体になる瞬間を眺めることが好きだった。そこで透明なものに惹かれていった。透明なものには光が抜ける安心感があったから。」
この感性が現在の仕事に繋がっていく。
そして、本格的にガラス作家へと進むきっかけとなったのは、東京ガラス工芸研究所に入学してからのこと。
「入学前、琉球ガラスの職人になったが、体験型の工房で、制作というよりも生産という感じだった。そんな中で、自分の思う作品が作りたい。と思うようになった。」
その気持ちがだんだんと強くなり東京ガラス工芸研究所に入学することを決意。
「琉球ガラスの知識は付けてたので自信はあったが、当時の自分が身につけていた技術はそんなに使うことが出来ず、型にハマっていたのを崩すのが大変だった。だけど、知らなかったことも学んでいくうちに、やっぱり、わたしはガラスが好きなんだと強く実感した。」
琉球ガラスはカラフルなものや透明なもの、発色のいいものに絞っていたが、「不透明のガラス」の魅力に出会い、ガラスの見方も変わったという津波古さん。
この学校で、津波古さんの思うガラスの世界がより大きく広がったんだと、話しを聞いて惹きつけられるほど伝わった。
そして3年間在学、卒業後2011年に地元沖縄に戻り独立。
地元愛が強いという津波古さん。沖縄に絶対戻ると、ずっと決めていたんだそう。
祖母の家の一階で、自分の工房を開いたが、当時は見切り発車で、何を作るかは決めてなかったが、この環境で制作ができる、”キルンワーク“を始める。
(キルンワークとは、一度ガラス化したものを電気炉で再加熱する技法。)
工房を見学していると、どれも目を奪われるほど綺麗なモノばかり。繊細さが伝わる。
津波古さんの作品のコンセプトは「ノスタルジー」。
たとえば、幼少期に祖母の家のお風呂場のタイル模様や、窓ガラスの波模様をなぞって遊んでいたときの記憶を作品に落とし込んでいるという。
この仕事でこだわっているところを聞いたところ、今まで話していた感じとはまたちょっと違う津波古さんを見ることが出来た。
「今まで結構ストイックに追い込んで制作をしていたが、最近はちょっとふざけよう!と思うようになり、遊び心を出していこうと楽しんで作っています。まだまだ、ふざけきれてはいないですけどね。(笑)これから、どんどんそういった部分も作品に出していこうと思っています。」
津波古さんが今後も制作を続けていくことで、自身の作品を通して伝えたいこと、発信したいこととは。
「地元愛が強いので、奥武島から離れたくない。私の作品を見たときや手に取ったとき、作品から奥武島の空気感や雰囲気を感じたり、奥武島の魅力を知るきっかけになってほしい。この作品を作った場所、背景を見てみたいな。と感じてくれたら嬉しい。」
「ノスタルジー」。
このコンセプトには、津波古さんの幼少期からの感性だったり、考え方、モノの見方にが詰まっていて、お話しを聞いていて、いくつもの驚きと、私自身もモノだけではなく物事の見方を変えてみようと思える時間を過ごせた。
津波古さんの作品を見て、手に取って、誰しもが持っているであろう、「ノスタルジー」な感覚を味わってみてほしい。
首里石鹸 玉城悠以奈
【glass studio 亜sian.h】
DATA:〒901-0613 沖縄県南城市玉城字志堅原462
営業時間:不定休※在庫が無く案内出来ない場合もあるので要事前連絡。
TEL:098-943-9351
mail:glass.asian.h@gmail.com
Facebook:https://m.facebook.com/Asian.h2011/
イベント情報:6月17日(金)~7月3日(日)
プラザハウスショッピングセンター1F
flagship OKINAWAにて、商品展示、販売。
1981年沖縄県南城市出身。
幼少期から透明なモノへの興味があり、2008年、東京ガラス工芸研究所に入学したのをきっかけに、本格的にガラス作家の道へ進むことを決意。
2011年 glass studio 亜sian.h 設立。
ガラスを使った “ 自分の作りたいもの ”を生み出していくことにやりがいを感じ、現在もここ地元で、ノスタルジーな作品を制作している。